とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ポーラースター

 最初、極北シリーズの新しい作品かと思ったが、チェ・ゲバラを主人公にした4部作の1作目だという。チェ・ゲバラの名前とキューバ革命カストロと共に達成した革命家ということだけは知っていたが、その略歴等はまったく知らなかった。そもそもアルゼンチン出身の医者だったなんてことはまったく知らない。

 それで読了後、いくつかの書評を読むと、史実とあまりに違うと批判するものが多く見られた。エビータとの関わりなんて本当にあったのかと思ったが、それも脚色。他にもボルヘスネルーダといった文学界の巨匠との関わりも多分脚色。そもそも南米旅行に同行した友人はピョートルではなくグラナード。それでグラナードは地雷で死ぬことはなく、2011年まで長寿を全うした。

 しかし雰囲気はよく出ているし、これをきっかけに南米の歴史に興味を持ってくれれば嬉しい、なんて趣旨のことを海堂尊も言っているから、これをチェ・ゲバラの伝記的小説として発表していいのかという点に多少の疑問も残るが、小説としては非常に面白い。友人の爆死が主人公の考えや行動を大きく変えていくというのも、これまでの海堂作品からすればありがちな展開だし、エンターテイメントとしてはわかりやすく面白い。

 ということで、あくまでエンターテイメントでありフィクションだということをよく理解した上で読むには面白いし、次作以降にも期待したい。もっともあわせてゲバラ関連の書物戸井十月の「チェ・ゲバラの遥かな旅」や三好徹の「チェ・ゲバラ伝」くらいは読まないと何が真実かわからなくなってしまいそうだ。次はこれを読もう。

 

ポーラースター ゲバラ覚醒

ポーラースター ゲバラ覚醒

 

 

○革命は、宣言することで初めて革命と認識される。その意味でこの革命の生みの母はジャスミンだった。/ジャスミンの言葉は群集の衝動を、革命へと深化させた。革命の炎を燃え上がらせ、その中からペロンを不死鳥のように蘇生させた。彼女がいなければ、ペロンは群集を率いて得意げに自宅に凱旋するのが関の山だっただろう。(P180)

○19世紀、欧州をナポレオン旋風が席巻した余波で、スペイン帝国の南米支配が弱まった。そこで沸き上がった民族独立の気運の高まりを捉えた英雄二人が南米大陸に君臨した。/ヌエバ・グラナダと呼ばれた現在のコロンビア・ベネズエラエクアドル三国をグラン・コロンビアとして独立させ初代大統領に就任した北の鷲・ボリバルアンデス越えでペルー・チリ・アルゼンチン三国をスペイン支配の軛から解き放った南の虎・サンマルティン。/同時期に南米大陸の解放戦線に奔走した二人の成果を合わせると南米の西半分を解放したことになる。だが両雄並び立たず、ふたりが生涯ただ一度相まみえたのがここグアキヤルだ。(P268)

○遺跡は街の死体だ。でも生物と違い、腐敗せず保存される。・・・スペイン人の暴虐で原型をとどめず破壊され尽くした遺跡群の中で、マチュピチュだけはインカが早々に放棄して樹木がその存在を覆い隠したため、当時の姿のまま保存された。/それは緑のタイムカプセルだった。・・・ぼくは知りたかった。なぜ、あれほどまでに高度で優雅な文明が滅ぼされてしまったのか。/彼らに一体、何の咎があったのか。/すると雲間から光がさしかかり、天から言葉が降ってきた。/―弱さは罪だ。戦え、大切なものを守るために。/その時、確信した。街が滅びたのは運命に抵抗しなかったからだ。/戦わない者は奪われる。残念ながらそれがこの世界の摂理だ。/ぼくの中で、非武装革命という信念の土台が、音を立てて崩れ始めていた。(P371)

○ひょっとしたら人の世の地獄を終わらせるのは、言葉しかないのかもしれないね。どんな猛者でも打ち倒せるのは10人がせいぜいだ。でも言葉を発すれば相手のこころの奥深く染みこんで、何万人もの敵の戦意を奪うこともできる。紙切れに書かれた言葉がそんなことも引き起こせるのはすごいことだ(P410)