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とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

チェ・ゲバラ

 海堂尊「ポーラースター」を読んで、チェ・ゲバラの本当の姿、生き方を知りたくなった。さっそく戸井十月の「チェ・ゲバラの遥かな旅」と三好徹の「チェ・ゲバラ伝 増補版」を買ったが、それらを読む前に図書館で予約した本書が届いた。昨年7月に刊行された最新のチェ・ゲバラ研究だ。長くラテンアメリカを取材してきた筆者による新たに発掘された事実も含まれている。例えば、別れの手紙の末尾の文章の改竄について、チェの娘にインタビューして、フィデルの改竄の証言を引き出している。

 そうした細かい部分は専門家に任せるとして、チェ・ゲバラの人生に初めて触れた私としては、その人間の強さと志の大きさに驚くほかない。チェはキューバだけでなく、ラテンアメリカ全体の革命を目指していた。そして、チェが目指す革命は、共産主義ではなく、人民の自由を目指すものだ。

 先に読んだ「ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領」でも、ホセ・ムヒカは「私は自由主義者であり、無政府主義者だ」と言う。まさにムヒカはチェの思想を現代に継承している政治家の一人だ。そしてラテンアメリカというのは常にアメリカと対峙して、その搾取や傀儡政権などと戦ってきた歴史がある。

 チェ・ゲバラは結局キューバを離れ、コンゴで戦い、ボリビアで処刑されたのだが、フィデル・カストロがどうしてもキューバという国を治めていくためには米ソ中の間で妥協や調整などの政治を行う必要があり、それを理解しつつ、自らのラテンアメリカ革命への大志を成し遂げるためには、キューバを離れざるを得なかった。そのあたりの状況も詳しく書かれており、興味深い。チェはボリビアでもっと早く死を迎えたのかと思っていたが、実に1年近くもボリビアの山中で抵抗を続けたのだった。やはり尋常の人間ではない。

 そのキューバも昨年7月にアメリカと歴史的な国交回復を遂げた。一党独裁社会主義共和制という政治体制は変わらないが、ソ連もなくなって早や20数年。キューバの社会・経済も今後は大きく変わっていくのだろう。多極化の時代にキューバを初めとするラテンアメリカの国々の動向は注目に値する。

 

チェ・ゲバラ - 旅、キューバ革命、ボリビア (中公新書)

チェ・ゲバラ - 旅、キューバ革命、ボリビア (中公新書)

 

 

フィデルは、エルネストにとって申し分のない知性の持ち主だった。エルネストが驚いたのは、フィデルが革命構想によってキューバを呑み込もうとしていることだった。エルネストは、広大な祖国アルゼンチンを呑み込もうなどと思い至ったことはなかった。生まれ育った国の版図の大きさは人生観や世界観を条件付ける。だがフィデルは小さな島国の生まれながら、ラテンアメリカ全体が祖国であるかのような構想力を備えていた。(P36)

○チェは隠れ家で娘イルディータを抱き上げ、「僕の小さなマオ(毛沢東)」と語りかけた。東洋系の血の流れる生後9ヶ月の少女は細目で、チェは敬愛していた中国革命の最高指導者にあやかっていたのだ。「君が大きくなったら、この大陸中、もしくは世界中が大きな敵、米帝国主義と戦っていることだろう。君も戦わなければならないよ。僕はそこにいないかもしれない。でも、戦いの雄叫びが大陸を覆い尽くすだろう」。(P43)

○共産者呼ばわりに対しては、「従属を拒む者を一緒くたに共産者呼ばわりするのは独裁の古い手口だ。<七月二六日運動>は民主運動だ」と明確に反撃した。チェは語る。/「私は言われているような人間ではなく、自由を愛する者にすぎない。私は医者としてキューバに来た。この国に悪性腫瘍があったから、その除去を手伝ったまでだ。・・・この革命戦争では農民、労働者、知識人で構成する部隊が正規軍を撃破した。独裁者相手の戦闘で得た重要な事実だ」(P84)

○「フィデルはチェを酷使した。ソ連の援助が不可欠になるや、反ソ傾向のあったチェを切り離さねばならなかった。だからボリビアに行った。悲しいのは、見捨てられたチェが感知していたことだ。チェが犠牲になるや、フィデルはチェを宣伝に使った。・・・チェは優れたゲリラではなく、平凡なゲリラだった。チェは冒険好きで勇気があった。活躍できる場を求めていた。チェはキューバ革命の象徴というよりも犠牲者だ」(P122)

○チェは1965年3月末フィデル宛に、孤独な心境と決意を書いた「別れの手紙」を書き・・・キューバ国籍を返上した。・・・以下、手紙の概要を記す。/「今日、すべてのことが劇的でなくなっている。我々が成熟したためだ。私はキューバ革命への義務の一部を果たしたと思う。君と、同志たちと、我がキューバ人民に別れを告げる。私は・・・キューバ国籍を正式に放棄する。・・・諸国人民がいま、私の支援を求めている。・・・私は勝利するまではキューバに戻らない。(P218)