とんま天狗は雲の上

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豊洲の盛土問題に理系技術者と文系政治家の違いを感じる

 築地市場の移転に絡み、汚染土壌を除去後に盛土する予定が、専門家会議の了承等を経ず、鉄筋コンクリート造の地下空間に変更されていた問題がマスコミを騒がせている。当初このニュースを聞いた時には、「汚染土壌は除去されているのだから、何が問題なんだろう?」と思った。どうやらその後の展開を聞いていると、除去後も残留する汚染物質への対策として盛土が有効という提言があり、それを無視して異なる工法と構造にしたことが問題ということのようだ。その後、ニュースは地下空間に溜まっている水も問題だということになり、水質検査などを繰り返している。ところで結局、鉄筋コンクリート造の地下空間は汚染土壌対策として有効なのか、危険なのか?

 理系技術者としては、汚染土壌を除去した後で、汚染物質についてどういう危険が残っており、それに対してどういう数値目標を設定して対策を決定したのかという点を明らかにしてほしいと思うが、これまで明確な説明はない。また、汚染土壌を除去し、盛り土をしたその上部に市場を建築することはわかっていたわけで、建物の基礎下の位置はどのあたりに設定するのか、また地盤状況から考えれば、盛土層のはるか下まで杭を打設せざるをえないことは当然で、そうした上部に建設する建物等の形状まで検討した上での提言だったのかという点も気になる。

 ここまでの報道ではおそらく、専門家会議では最終的な数値目標までは設定しておらず、また上部の建物の形状まで検討した形跡も感じられない。漠然と「汚染土壌を除去後はその上に盛土をした方がより安全だ」という程度の提言だったのではないか。改めて専門家会議のメンバーを見ると、有害物質、水質、土質、環境保護の専門家4名で構成されており、建築工学や土木工学の専門家はいない。一方、その後に設置された技術会議には、土木や環境の専門家が参加しているようだ。幸い専門家会議は改めて開催し検討を行うようなので、技術会議の委員の方にも参加してもらい、また建物を設計した日建設計の担当者の方にも参加してもらって、既に建物が建築されたという現実を踏まえて、新たに安全対策を行う必要があるのか、あればどういう対策が必要なのかといった具体的な提言がされることを期待したい。

 ところで、この問題に対して、マスコミ各社や政治家等から、過去の担当者が専門家会議の委員に報告をすることなく、盛土を取りやめ、鉄筋コンクリートの地下空間に変更した点を批判し追及する発言が相次いでいる。ようするに、安全性よりもコンプライアンスを問題視しているように思われる。そもそも小池都知事がそういうスタンスでいるようだ。しかし、小池都知事が選挙前から築地市場の安全性について異論を唱えていたかと言えばそうでもなさそうだ。小池知事の下での初めての東京都議会は今月28日開会の予定だから、その前に都議会対策として、また都の職員対策として、大きな手を打ってきたという印象が強い。

 「私の言うことを聞かないとどうなるかわかっているわね」とまずは都の幹部職員を震い上がらせ、ついで都議会やマスコミを黙らせて「私についてきなさい」とリーダーシップを取る。そんな意図をもった行動のような気がしてならない。都職員にしてみれば、めんどくさいことだ。都知事が自ら問題を提起し、それを解決してみせて自らのリーダーシップを見せつける。しかし「都知事が取り上げなければ、世間的には問題にもならなかったことでしょ」。きっとどこかの都職員はそうつぶやいているような気がする。

 結局、環境や工学に関する技術的な問題が、倫理や法律などの政治的な問題に無理やりすりかえられたということではないのか。もちろん東京の話であり、築地市場の農水産物を私が口にする機会もなさそうだからどうでもいい話だが、今回の騒動に対して技術者としては何となく違和感を持って眺めている。