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とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

このあたりの人たち

 まあ荒唐無稽な話である。荒唐無稽な「このあたりの人たち」の話が26話も詰まっている。町の人たちは、ある日突然、いなくなったり、復活したり、病気になったり、噂話をしたり、まあとんでもないことが普通に起きて、そして普通に元に戻る。そもそもそれが普通ではないことだけれど、誰もそれを普通ではないとは思っていない。だから荒唐無稽なことが普通に起きる。

 かなえちゃんは不良になり、フランスへ留学し、郷土の誇りとなった。かなえちゃんのお姉さんは妙なものを持ち歩き、恐山のイタコとなり、地球を救って英雄となった。銅像が3体も建った。赤井は町のやっかいものだったが、大きくなったらすごくいい男になって演歌歌手になったそうだ。

 破天荒な話は突然終わる。だから何? だから、こんな町の人たちを愛している。たぶんそんなことを言いたいのだと思う。このあたりの人たちは破天荒だけど愛すべき人たちばかりだって。そんな人は私の周りにもいる? いたらいいな。いや、いたら迷惑だろうな。このあたりの人たちは結局、川上ワールドの中に住んでいるのだろう。たまに会いたい。でも毎日は無理かも。

 

このあたりの人たち (Switch library)

このあたりの人たち (Switch library)

 

 

○こどもにくらべて歳をとった。最初は可愛くもなんともなかったこどもを可愛く思うようになった。へんくつになった。マンションを買った。犬を一匹飼った。猫を三匹飼った。死ぬことが怖くなった。/犬も猫も死にたえて、こどもだけが残っている。そのうちこどもだけが残るのだ。(P10)

○「スナック愛」に、この町の人は絶対に行かない。ごくまれに、ふりの客がまちがえて入ってしまい、しばらくすると蒼惶として出てくる。おばさんがどうやって生計をたてているのかは、謎である。(P44)

○「昔なら、こういう時は、埋め部だったんだけど」/おじさんが言うので、首をひねった。埋め部って、なんですか。/「あれよ。あんたたちの小学校のクラブ活動で、ほら、埋めてくれる部のこと」/そんなクラブはないと言うと、おじさんはうなずいた。今は、ないよ。でも、前は、あったの。/埋め部は、頼めばなんでも埋めてくれたのだという。捨ててしまいたい日記に、いらなくなった鍋釜。いやな思い出のまつわる服に、壊れたガラスのコップ。(P86)

○そうやって10年、20年と月日がたち、町はやがてさびれて無人になった。けれどあいかわらず大使館だけは、奇抜な国旗をたかだかと掲揚し、専属運転手つきの車をぴかぴかに磨きたて、羽振りがよかった。/そして、ある日突然すべてが元に戻った。/町の道路は掃き清められ、学校は再開され、廃人になっていた町の人たちは若返って元気になり、株価や兵役などといった概念は一掃された。(P114)