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とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

人口と日本経済

 人口減は当然ながらGDPを引き下げる。そう思っていた。確かにそういう面はある。しかし経済とは必ずしも人口と連動するわけではない。本書は「人口減少時代における日本経済の未来を予測する」類の本ではなく、人口の推移を念頭に置きつつ、人口の影響はあるが、経済は必ずしも人口のみに連動するわけではないことを説明していく。人口と経済の関係を論じるというよりは、「経済とは何か」を説いた本と言える。

 答えは、経済はイノベーション力にかかっている。それは冒頭の「はしがき」に書かれているが、以下、それを丁寧に説明する。一方で、創造されたモノやサービスはいつか需要の飽和に達していく。何も新しいものが生まれなければ、GDPは人口に比例するのだろう。だが幸い、社会には次から次へと新しいモノやサービスが登場して、人々の需要を刺激し、供給を促してきた。日本の高度成長は輸出入ではなく、そうした内需の高まりによって起こった。

 だが、これまでのように次から次へと発売される新製品に人が心奪われる時代は既に終わった。供給サイドはともかく需要サイドはもう充分飽和して、たとえイノベーションがあってもそれを欲しいとも思わなくなっているのではないか。そんな批判を思いつつ、本書を読み進めた。その答えになるのかどうか。第3章は長寿について書いている。戦後、日本は飛躍的に平均寿命を延ばし、格差を縮小してきた。そこには国民皆保険が大きく効いているという側面もある。

 今後の見通しだが、第4章は「人間にとって経済とは何か」というタイトルになっている。経済成長が社会の目的ではない。また経済は贅沢があってこそ発展してきた面もある。しかし同時に平均寿命を延ばし、快適な生活を実現してきた。筆者はこれからの超高齢社会には、さらに膨大なプロダクト・イノベーションが必要だと言う。そのためにも期待されるのは企業の投資であり、前向き志向だ。本書の終わりは「日本経済の将来は、日本の企業がいかに「人口減少ペシミズム」を克服するか、にかかっている」(P188)という文章で終わる。

 確かに失われた20年以降、日本社会全体が将来に対する「不安」に捉われている。人口減少が追い討ちをかけている。こうした「人口減少ペシミズムの克服」で経済は変わるだろうか。それはたぶんマインドというだけではなく、社会全体としてイノベーションを支援し歓迎する雰囲気、失敗を許し未来に期待するオプティミズムが必要なんだろう。豊洲の移転問題で犯人探しをするような風潮の国では、それは期待できないと言うべきではないか。経済は人の基本的な生活を支えるだけではなく、その多くは現生活に加えて贅沢や快適への欲求でできている。そのことがよくわかった。質素倹約では経済は発展しないのだ。

 

 

○2012年、英国の『エコノミスト』誌は「第3次産業革命」という特集記事を掲載した。先進国の製造業の現場は中国をはじめとするアジアの国々へ流出したが、これからは3Dプリンターなどの登場によりモノをつくるときに必要となる人間の労働はどんどん少なくなる。・・・21世紀には、「安い労働力」は大きなメリットではなくなる。むしろ新しいモノを売るマーケットに近いところでつくるメリットのほうが大きくなる。こうして、モノづくりの現場は再び先進国へ回帰するだろう。(P90)

GDPは1年間にわれわれがつくり出すものやサービスの「価値」を価格で評価し、足し合わせたものにほかならない。価値の基準として使われる価格は、人間の主観的な評価を表す。例として料理を考えてみよう。・・・われわれ人間が高い価格を払ってもよいと思うほど「旨ければ」、高い価格がつく。逆に人々の評価が低ければ、価格は低くなる。GDP、そのもとになる価格とは、人間がモノやサービスに対して主観的につける点数なのである。(P148)

○既存のモノやサービスに対する需要が飽和に達するなら、モノやサービスのリストが変わらないかぎり、経済全体の成長もやがてゼロ成長に向け収束していかざるをえない。こうして多くのモノやサービスが普及した「成熟経済」には、常に成長率低下の圧力がかかっている。そうした先進国経済で成長を生み出す源泉は、当然のことながら、高い需要の成長を享受する新しいモノやサービスの誕生、つまり「プロダクト・イノベーション」である。(P159)

○超高齢社会において人々が「人間らしく」生きるためには、今なお膨大なプロダクト・イノベーションを必要としている。超高齢社会においては、医療・介護は言うまでもなく、住宅、交通、流通、さらに1本の筆記具から都市まで、すべてが変わらざるをえないからである。それは、好むと好まざるとにかかわらず、経済成長を通してのみ実現されるものである。逆に、先進国の経済成長を生み出す源泉は、そうしたイノベーションである。(P185)

シュンペーターは、イノベーションの担い手にとっては・・・未来に向けた自らのビジョンの実現こそが本質的だ、と言った。ケインズも、・・・健全なオプティミズムが失われ合理的な計算のみに頼るなら企業は衰退する、と言っている。/日本経済の将来は、日本の企業がいかに「人口減少ペシミズム」を克服するか、にかかっているのである。(P188)