とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

チェ・ゲバラの遥かな旅

 海堂尊「ポーラースター」、伊高浩昭の「チェ・ゲバラ」に続いて、戸井十月の「チェ・ゲバラの遥かな旅」を読んだ。読む順番としては逆かもしれないが、次第にチェ・ゲバラの実像に近づいていくような気がする。伊高浩昭の「チェ・ゲバラ」の方が正確かもしれないが、本書の方がチェの気持ちが伝わってくるような説得力がある。もっとも海堂尊の「ポーラースター」の方が息遣いまで伝わってくる迫真性があるが、あまりに事実と異なる部分が多いことを思い知らされる。もっと劇的に描かれているかと思っていたが、思った以上に抑えたタッチで真実味が伝わってくる。それでも創作の部分は少なからずあるのだが。

 「遥かな旅」というタイトルから、海堂尊の小説と同様、若い頃のアルベルトと行った南米縦断旅行が描かれているのかと思っていたが、ゲバラの旅はさらに長く、ボリビアでの死まで続く。そして彼の旅は今もまだ続いている。ラテン・アメリカの反骨の政治精神の中で。そして多くの人々の心の中で。

 

チェ・ゲバラの遥かな旅 (集英社文庫)

チェ・ゲバラの遥かな旅 (集英社文庫)

 

 

○チェは道徳の巨人です。彼のように純粋で、真の尊敬に値する人間の存在は、腐敗した政治家や偽善者がはびこる今こそ、より一層際立って見えます。チェの理想が実現していたら、世界は違ったものになっていたでしょう。/戦士は死ぬ。しかし、思想は死なない。チェは、全世界の貧者の象徴として永遠に行き続けるでしょう。(P14)

○二人は7カ月に及ぶ南米大陸縦走の旅の過程で、ラテン・アメリカ解放と統一の精神的支柱、シモン・ボリーバルとホセ・マルティの次のようなメッセージを体に染み込ませていた。・・・ホセ・マルティは言った。・・・アメリカ大陸は民衆に近づくための大地であり、決して民衆から遠ざかるための大地ではない。アメリカ大陸の民衆こそが未来の担い手である。(P74)

フィデルたちと再会できたことは確かに嬉しかったが、しかしゲバラは浮かれた気分にはなれなかった。/―たった12人で何ができる……。・・・弱気になるゲバラたちを尻目に、しかしフィデルは意気軒昂だった。/「これでバチスタの命運も尽きたな。我々は、きっと勝つ」/さすがのゲバラも、フィデルのこの言葉には呆れた。この状況にあってこの台詞を吐くフィデルという男は道理の通じない狂信者、あるいは楽天家を通り越した単なる馬鹿ではないのか……。(P144)

○「ゲリラ兵士こそ、優れた解放の戦士であり、人民の中から選ばれた者であり、解放闘争において人民の前衛として闘う者なのだ。・・・ゲリラ戦とは単なる小規模な戦争などではなく、また強力な軍隊に立ち向かう小集団の戦争でもない。そうではないのだ。ゲリラ戦こそは、圧政に対して断固反逆する、まさに全人民の戦争なのだ。・・・だからこそ遅かれ早かれそれは一つの力となり、抑圧する者すべてに対抗して最終的に勝利するのである。言い換えれば、ゲリラが存在しうる基盤と根拠は人民そのものの中にこそあるのである。(P173)

○「チェ・ゲバラという人間の、最も優れた資質は何だったと思いますか?」の質問に、アレイダも旧同志たちも、皆、口を揃えたように同じ答えを返した。/「人を愛する才能です」・・・ゲバラは稀代のゲリラ戦士であり革命家であるより前に好奇心に満ちた旅人であり、負けず嫌いのスポーツマンであり、ロマンティックな詩人だった。そして何より、人を愛し続けた。(P263)