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とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

現代の地政学

 地政学とは何だろう? 今後の政治状況を地理や歴史を頼りに見通すことだろうか? 本書では第5章でこのような認識で書かれた舟橋洋一の「21世紀 地政学入門」を徹底的に批判する。そして地政学の基本は地理であり、ついで人種や宗教も重要な要因だと言う。しかし歴史や資源、民族などは地政学的要因ではない。その点で舟橋洋一の本は居酒屋談義的な地政学に過ぎないと言う。

 ところで地政学は将来を予測する学問なんだろうか? 本書でも第5章は「21世紀の地政学的展望」と題して、中東の問題と宗教的な見通しを述べて、それに関連して日本やアメリカ等の国際的な展望を記述している。でも本来は、過去から現在に至る国際的な政治状況と地政的要因との関係を分析するところまでが学問であって、将来予想までを学問に加えていいのだろうか。

 多分、地政学的な視点から分析される将来展望はあるが、地政学で要因とする要素以外の要因も多く政治状況に影響するため、必ずしも将来展望が当たるわけではない。それは地政学の仕事ではなく、地政学的手法による将来展望ということなのだろう。そのことを筆者はしっかりと弁え、本書も執筆しているような気がする。

 執筆と書いたが、実際は全5回にわたり行われた講義の記録をベースにしたものである。そこで第2章からは、地政学の古典である「マッキンダー地政学」を詠み進める形で講義が進行する。さらに第4章では「マハン海上権力史論」を読んでいく。これら教科書的書物を読みながら、佐藤氏が現在に即してコメントし、分析をする。そういう本である。

 それで本当の意味での地政学を学びたい人は、まずこれらの古典を読むべきである。これらの古典に照らして現在は地政学的にどう読み解くことができるかを表したのが本書である。しかし将来は地政学的展望だけでは見通せない。というか不確定要素がありすぎて未来予測は困難。だが近くとも遠からずで地政学的展望は有効、というのが筆者の立場だろう。地理と政治。それだけで歴史を見ると、これまでとは違った歴史が見えてくる。地政学はそういった学問であればいいように思うが、そうした本はないのだろうか。

 

現代の地政学 (犀の教室)

現代の地政学 (犀の教室)

 

 

全体主義というのは・・・ヨーロッパだったらヨーロッパそれ自体が全体だと考える。日本だったら日本でそれ自体が全体なのです。ロシアなら・・・。それが切磋琢磨しあって、人類という類になっていると、こう考えるわけです。だから全体主義というのは必ず複数の全体がある。・・・その意味においては、どの全体もどの部分もなくならない。小さくなることはあってもなくなることはない。・・・それに対立する考え方が普遍主義で、全体主義が多元性と寛容によって成り立っているのに対して、普遍主義は非寛容と平等によって成り立つ(P053)

○アラブにおいては人権の思想が入らなかった。その結果、今でも神権です。神権では、神様が決めたことだけが重要なのであって、人間の自己統治なんていうのはまったく間違った考えです。だから人間はシャリーアというイスラム法によって統治されなければいけない。(P148)

津軽海峡は一応国際海峡になっています。・・・日本が北洋航路における物流の決定的な鍵を握ることができるわけです。/もう一つ、ロシアが陸上での物流を確保するには、シベリア鉄道の輸送量を増す必要があります。・・・日本がロシアにトンネル技術を供与してシベリア鉄道の近代化を行えば、今度は陸上での物流を確保できる。その意味において、マッキンダー地政学において閉ざされているユーラシア島は開くことができるわけです。その可能性を日本は持っている。したがって日本は世界の地政学秩序を大きく変化させるプレーヤーになるかもしれません。(P202)

地政学とは地理です。なぜならば地理的な要因はなかなか変化しないから。その中で私が毎回の講義で強調してきたのが、「山」です。・・・要するに一言で言えば、「”山”の周辺地域を巨大な帝国が制圧して、自らの影響下に入れることは難しい」という、このマッキンダー地政学的な制約条件は、現在も生きているということです。・・・だからわれわれは地図を見るとき平面で見るけれど、立体で地図を見てみる努力をするべきである。(P258)

地政学的要因で一番重要な要因は地理です。とくにその中で重要なのは「山」です。これらの地政学的要因で説明できないようなことが出てきたときに、どういう文化的要因があるのかを考えること。文化的要因の中でも長いスパンで影響を与えて、地政学的な要因に限りなく近いことは何かというと、それがたとえば人種や宗教のような概念になります。こうした長いスパンで影響を与える概念と、比較的近代になってから起きた科学技術の進歩や、民族などの概念を一定程度分けて、相互に動的な分析をするというのが地政学の要です。(P299)