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とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

砂漠の影絵

 「蛍の森」に続く石井光太2作目の小説。前作はハンセン病患者の隔離と苦しみを描いた秀作だったが、今度の作品は、中東の武装集団による人質事件を描く。そこに描かれているのは、人質の命よりもアメリカのご機嫌を伺い、自己責任の言葉で被害者を批判する日本政府の姿だ。まさに過日見た風景。そして中東で欧米の国々が何を行い、アメリカが何を考えイラクを攻撃し、中東の人々がどんな目に会い、何が聖戦に駆り立てるのか、という想像。

 武装集団での対立。金目当ての聖職者。死の恐怖に怯え、助け合い、疑心暗鬼になる人質たち。平和を求め、自爆テロを否定し、しかし人質殺害しかできない頭領。政府に頼らず、企業を脅しつつ、人質救出に動く友人。そして最後は・・・

 テロリストたちの多くは多分平和を求めているのだろう。そしてアメリカがやっていることは・・・。怒りがこみ上げると同時に悲しみが満ちてくる。そして世界は、また日本においても同様に、憎しみが勝る時代になりつつあるのかもしれない。そんな時代だからこそ、多くの人にこの小説を読んでほしい。世界の実相を知っておきたい。

 

砂漠の影絵

砂漠の影絵

 

 

〇「自分は・・・フォトジャーナリストとしてここにきたんだ。やるべきことはやってるつもりだ」/「日本人、君の写真見て戦争やめる?」/「そこまではわからないけど・・・で、でも、ここで精一杯のことをやってる」/「嘘ヨ。君、仕事で来てるちがう? 君、お金もらう。名誉もらう。イラク人死ぬ。それだけヨ」(P45)

〇米軍は戦争をはじめると、基地や収容所のインフラ工事のために途上国から労働者をかき集める。おそらくこのタイ人二名もそんなふうにしてタイからやってきた労働者に過ぎなかったはずだ。・・・「これが現実だよ。タイ政府は国民のことなんて考えてねえんだ。米軍と仲良くして外資系企業を誘致したり、国際援助をしてもらったりする方がずっと大切なんだろ。そのためなら出稼ぎ労働者の命なんてどうだっていいのさ」/「日本政府も?」とくるみがつぶやく。(P104)

〇「そいつの傷は?」/「米軍にやられたんです。ブラックホークに助けを求めたら、逆に撃たれた」/「なぜ」/「作戦中の米軍にとって日本人の人質なんてどうだっていいんでしょ。少なくとも命の危険を冒してまで守る相手じゃないんですよ」(P328)

〇奴らは、サダム・フセイン独裁政権さえ崩せば、イラク国民が諸手を上げて自分たちを歓迎し、民主主義を受け入れ、原油の利権も手に入れられると見くびっていたんだろう。・・・しかし、中東諸国の政治は奴らが考えるほど甘いものではない。なぜ中東諸国で独裁者の支配が何十年もつづいているかといえば、様々な民族や部族や宗派が複雑に入り乱れているため、強大な力で抑圧することでしか国家の安定を保つことが難しいからだ。/イラクも同じで、サダム・フセインという男が重石になって国家を分裂させないように力で押さえていた。・・・いわば、アメリカは理由なき攻撃によって、イラクの「禁断の扉」を開けてしまったのだ。(P346)

〇いつの日か、アメリカが正当な理由もなくイラクを侵略し、大勢の罪なき人々を殺害したという事実が明らかになり、俺たち旅団が最善の方法で真っ向からそれに抗ったことが世界的に認められる日がくるはずだ。・・・俺はアメリカの奴らが言うように狂った殺人鬼ではなく、イラクの平和のために命をかけて戦う聖戦士だ。俺は心から平和を希求し、私利私欲を一切捨て、アッラーの教えに従い、すべてのイスラーム教徒が幸せに暮らせる世の中をつくろうと努めてきた。その経緯と本心を、俺自身の言葉で残したかったのだ。(P348)