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とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

不時着する流星たち

 グレン・グールドエリザベス・テーラー牧野富太郎・・・。10の人物・事物などにインスピレーションを受けた10の短編小説が収められている。10の内訳は、名も知らぬ作家もいれば、バルセロナ五輪男子アメリカバレーボールチーム、さらには「世界最長のホットドッグ」なんてのもある。「本の旅人」に連載されていたものだが、順番は掲載順だったのだろうか。

 最初のうちはインスピレーションを得た人物の作品や人生に直接つながるものが多かったが、「世界最長のホットドッグ」に寄せた小説は、子宝に恵まれない夫婦が文鳥を飼い、死に向かう時に足が向いた公園で、「世界最長のホットドッグ」づくりに挑戦するための寄付を募る女性に会った、という話。どうして「世界最長のホットドッグ」が文鳥とつながるのか、よくわからない。

 それでも全体に、小川洋子らしい静逸さと微かな感情に溢れている。喜びであったり、悲しみであったり、でもそれはいずれも染み入るように微かで、物悲しくもある。確かに小川ワールドだ。静かな気持ちにさせてくれる。やさしい短編集だ。

 

不時着する流星たち

不時着する流星たち

 

 

○ところがある日、不幸なことに母親が胃がんで死んでしまったのです。・・・その葬儀の風景が今でも忘れられません。墓地までの長い道のりを、子どもたち八人、毎日繰り返した散歩のとおり、一列に並んで歩き通しました。実に見事な歩みでした。・・・そこにあるのは死のむごたらしさではなく、むしろ清らかさでした。ああ、この時のために母親は、来る日も来る日も子どもたちを散歩させていたのか、と皆が納得したのでした。(P35)

○縮小の進行につれ、口笛の響きは鮮やかさを増してくる。ノートに広がる余白に反比例して、脳みそは口笛で一杯に満たされる。/「おじいちゃん」/そう、そっと呼んでみる。行き場のない僕の声は、仕方なくあたりを漂っている。口笛虫が祖父を洞窟の奥に誘っている。僕は追いかけて歩数をかぞえようとするが、祖父の足音は暗闇に消え、もう跡形もない。(P129)

○「知らないのかい? 蜘蛛の巣は宇宙からの手紙なんだ」/叔父さんは言った。/「えっ、本当?」/「糸の模様で、暗号化されているのさ。宇宙人とは言葉が通じないからね」・・・すぐそばで見つめると確かに蜘蛛の巣は、私が思うよりずっと繊細で奥深く、なおかつ美しかった。さまざまな形が組み合わさった図形には、神秘的な規則が隠れているらしい雰囲気が漂っていた。/「蜘蛛は?」/「別の場所で新たな手紙を執筆中だよ」(P236)