とんま天狗は雲の上

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世界でもっとも貧しい大統領ホセ・ムヒカ 日本人へ贈る言葉

 わずか110ページ。しかも1ページにムヒカ氏の言葉が枠に囲まれて大々的に書かれたページが数十ページも掲載され、それを解説するように1~3ページの文章が添えられている。ムヒカ氏の言葉はさまざまな機会・媒体から引用されている。日本のTV番組での発言や、雑誌・新聞、講演会記録など。

 ホセ・ムヒカ氏に係る本は実に多く出版されている。筆者の佐藤氏が書いた「世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉」もベスタセラーになったと筆者略歴に書かれているが、それは読んでいない。しかしプロローグで驚いたのは、前著がベストセラーとなった後、初めてウルグアイホセ・ムヒカ氏を訪ね、この本を書いていること。えっ、ムヒカ氏に会うこともなく前著を書き上げたのか!

 それで本書は、新たなインタビューをベースに書かれているかと思いきや、インタビューでのコメントはほとんどなく、ムヒカご夫妻の写真や農場、近くの精肉店の写真が口絵に載せられている程度。これらの写真を加えただけで、別の本に仕立てたと言われても仕方ないのではないか。内容的にはこれまで読んだ本と比べて特に目新しいことはない。一つ言えば、ウルグアイではムヒカ氏の大統領としての成果を批判する声が多いという事実を包み隠さず書いているところか。しかしそれも冒頭の2~3ページほどで、あとはムヒカ礼賛になっていく。

 結局、ムヒカ氏というのは人類を救う救世主というよりも、その言葉をもってそれぞれの人間に内省を求める役割を果たすタイプの人物だったということ。それでもこの欺瞞ばかりが集う政治の舞台で、質素と自由を謳う講演をした事実は多くの人の心に大きな石を投げかけた。そのことは忘れてはならない。ムヒカ氏を貶める必要はない。人それぞれ役割があるということ。さまざまな刺激を受けてどう生きるかは人それぞれに委ねられている。

 

世界でもっとも貧しい大統領ホセ・ムヒカ 日本人へ贈る言葉

世界でもっとも貧しい大統領ホセ・ムヒカ 日本人へ贈る言葉

 

 

〇「ムヒカは、国の運営責任者、大統領としては最低です」/ガルシア氏は、バッサリ切り捨てる。/「彼は公約の半分以下しか達成できていません。議会では過半数を持っていたし、国の経済は順調で、国民の支持率もあった。政治改革が実現できるすべての条件がそろっていたにもかかわらず、・・・/だが、その一方で、「私はムヒカという人物に惹かれている」とも言う。/「ムヒカには特別な魅力があります。・・・ムヒカは、思想家・哲学者としては非常に優れています。(P6)

〇西洋諸国に追いつけ、追い越せと躍起になって突き進んできた日本。その甲斐あって技術も進み、経済大国にもなった日本。しかし、それと引き換えに魂を失った日本。西洋の消費文化に侵されて物があふれる日本。そんな国に生きている私たちは、ムヒカ氏から見れば、とても不幸に思えるのだろう。(P21)

〇「人間が物を買うときは、稼いだお金で買っているのではなく、そのお金を稼ぐために労働に費やした“時間”で買っている」というのがムヒカ氏の持論。・・《たくさん買い物をした引き換えに、人生の残り時間がなくなってしまっては元も子もないだろう。簡素に生きていれば人は自由なんだよ》/この“自由”こそが、本当の幸福をもたらす。これは、ムヒカ氏の幸福論である。(P32)

〇《目標に向かって前進し、闘う者は、恐れるものがないのでとても幸福です。なぜなら希望があるから。幸せであるということは、生きていくことに心から満足していることです。毎日、太陽が昇るのも見て満足する。幸せとは、人生を愛し、憎まないこと。でも、そのためには大義が必要で、情熱を傾ける何かが必要なのです》/「幸せに生きるコツは?」/別のインタビューでこう問われたムヒカ氏は、次のように言い切っている。/《モチベーションを持つことです》(P43)