とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

楽しい縮小社会

 「谷根千」の森まゆみが京大名誉教授の松久寛氏を迎えての対談集。松久氏は2008年に縮小社会研究会をつくり、活動を続けている。縮小社会とはその名のとおり、「これからの日本は縮小しなければいけない」という趣旨の下、様々な専門家などが集まって研究活動をしている団体だ。

 なぜ縮小が必要か。それは資源と環境の限界が近付いてきているからだが、本のタイトルにもあるとおり、縮小社会はけっして暗い苦しい社会ではなく、楽しい。そこは森まゆみが昔ながらのコミュニティのある生活を取り戻すことによって、今以上に豊かな暮らしが実現できると書いている。

 やや懐古調のところもあるし、森まゆみ自身の性格や経験、作家としての感性などもあっての感想ではあるが、懐かしそうに綴る文章には思わずうきうきとする。必ずしも誰もが森氏のように生きることはできないし、今やそんな生活は考えられもしないという人も多いだろうが、人口が減り、資源が減っても、人間それなりに楽しく生活することはできるだろう。それが人間のしたたかさ、人間力

 だから私も縮小社会はまったく否定しないし、むしろ積極的に実現に向けて考えることの方が重要だと考えている。人口減少が始まっている時代にあって、いまだに成長シナリオしか描けない方が問題だ。縮小シナリオは楽しいよ、というのが森氏・松久氏のメッセージだ。

 

楽しい縮小社会: 「小さな日本」でいいじゃないか (筑摩選書)

楽しい縮小社会: 「小さな日本」でいいじゃないか (筑摩選書)

 

 

〇現在、世界で石油は100年分ぐらいあると言われているけれども・・・毎年1%ずつ消費量を減らしていくと、永遠にあと100年分の石油が残ることになります。・・・問題は、生産が減ることによって企業が倒産したり、人員整理が起きたり、税収の落ち込むことです。それに対しては、みんなで仕事を分けあうワークシェアリング、全国民に基本的な生活費を一律に支給し、健康で文化的な生活を保障するベーシックインカム、福祉政策の充実など行政の対策が必要です。(P033)

〇路地のある老人は「私が夜中の三時まで起きているし、隣の人は夜の八時に寝て三時に起きるから、この路地は24時間守られている」といった。また「隣の子供が可愛くてねえ。共働きだから帰ってくるとうちに来て僕の布団に潜り込んで一緒に昼寝する」という老人もいた。・・・路地の一軒一軒は狭くても、路地を挟んで相対する八軒分くらいを自分の居間として使えるのだから、相当に広いと言わなくてはいけない。(P68)

高齢化は大問題だと言ってるけど、たいしたことないと思います。寿命が延びているのに、退職年齢が若いままなのが問題なのです。高齢になっても、有給にせよ無給にせよ、働けるうちは働けばよい。・・・いろんな職種や働き方があるのだから、それぞれの体力や能力に適した仕事をすればよい。労働時間も長短あってよい。仕事を減らす分、収入が減るのは仕方ないでしょう。(P138)

〇日本はすでに人口が多すぎると考えているので、難民をどの程度受け入れるかは難しい問題です。周りの国と経済格差があると、開国すると何百万人の人が押し寄せるでしょう。時間はかかりますが、周りの国が政治的にも経済的にも豊かになるような支援をするしかないと思います。(P157)

〇軍は侵略してきた敵と戦うものだと教えられているが、実際は、自国民に銃口を向けて、国王や権力者を守る役割が大きいです。軍隊を持つよりは、近隣諸国と仲良く付き合う方がよい。・・・軍隊とは、相手が弱い時は攻め込むが、相手が弱いと先に逃げる。太平洋戦争末期に、満州ソビエト軍がやってきた時は、日本軍は日本人住民を置き去りにして逃げました。・・・この先どうなるかよくわかっているので、さっさと逃げる。逃げられないときは住民を盾にします。(P191)