とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

映画「人生フルーツ」

 昨年末から今年にかけて、全国で順次公開されて好評だった映画「人生フルーツ」を妻と二人で観てきた。私たちが住む高蔵寺ニュータウンを計画し、また住み続けた津端修一夫妻を描いたドキュメントで、前から一度観なくてはと思っていたが、先週からミッドランドシネマ名古屋空港で再上映が始まった。せっかくの休日に、妻は「先日オープンしたIKEA長久手店に行きたい」と言ったが、IKEAで昼食を取った後、急いで「ミッドランドシネマ名古屋空港」へ向かった。

 津端修一氏とご夫妻のことは高蔵寺ニュータウン界隈では古くから有名で、私も二人で書かれた「高蔵寺ニュータウン夫婦物語」を読んだことがある。もう20年近く前の本だが、その時は都市計画家としての津端氏を期待していたため、やや辛辣な感想が書かれていた。だが映画を見て感じたのは、津端氏は根っからの建築家だということ。戦後、アントニン・レーモンドの事務所で働き、住宅公団創設とともに入社して団地設計に携わってきた。映画でも、講演らしき依頼を断る場面や伊万里市の医療福祉施設の概略設計を楽しそうに提案する姿などが映されていたが、そのイラストの見事さなどを見ても、最後まで建築家であったのだなと思う。

 映画を見ていると、何度も高蔵寺ニュータウンが映し出される。あ、これはあそこから撮った景観、これはあそこの団地と、わが街の姿にたびたび反応。また、造成前や造成中の映像もあり、こんなだったのかと驚かされる。ちなみにわが家のある街区は、津端氏の当初のマスタープランでは雑木林になっていた。自分の住む街がこんなにも多く映し出される映画を観ることは初めてで、その点だけでも楽しかった。

 映画は2013年の日々が中心で、2014年の正月を迎えてしばらくしてから、突然、音がなくなり、喪服を着た英子夫人の姿が満艦飾の飾り旗とともに映し出される。そして津端氏の死に顔が長く映し出された。本物の死者の顔をこれだけ長く映し出す映画作品もないだろうと思う。その後も亡き夫との生活を変えることなく生活する英子夫人の姿に熱いものがこみ上げてくる。

 帰りに、津端氏の自宅の前を通ってみた。家に灯りがついていた。今日も夫人は夫の面影とともに食事をし、布団に入るのだろうか。自分たちの30年後を考えずにはいられない。でもあんな人生はあの年代の人たちでなければ送れないだろう。私や妻の父親と同じ年代だが、その中でも津端氏はあの人生を強い意志で実現していった。そして90歳を過ぎて、本当にいい顔をしている。幸せな人生だったと思う。

PS.

 今朝、新聞を観たら、津端修一・英子夫妻が、「澄和Futurist賞」を受賞したという記事が載っていた。新聞では「平和な未来を願って市民目線の活動に取り組む人たちを表彰する」と書かれているけれど、この賞自体を知らなかったのでHPで調べたら、不動産業のスターツコーポレーション(株)を創業した村石久二会長が創設した一般財団法人が実施している顕彰制度だった。うーん。安易に「平和」を掲げている点は気になるけど、どんなもんなんですかね。津端修一氏は特に平和のための活動をしたわけでもないし、映画の中でも台湾時代の戦友と軍歌を歌う場面が出てきたりしている。一方、日々の生活を楽しむという津端夫妻の姿と平和はつながっているようにも思うし。まあ、表彰制度は表彰者が受賞者に阿る仕組みだとは思うから、津端夫妻はそれだけの存在であったということなんでしょう。