とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

フットボール批評 issue18

 11月初めに本書が届いてから、しばらく他の雑誌などに紛れて、読むのを忘れていた。12月初めにはW杯本大会の組合せ抽選も終わり、日本はポーランドセネガル、コロンビアと戦うことになった。どこも難敵だが、他のグループよりはマシかもしれない。いや、そんな意識で今大会もグループリーグ突破は無理だろう。本書を読んで、W杯での勝利学を学ぼう。特集は「日本代表『W杯勝利学』」。

 一部では現在の日本代表の戦い方を、日本の特徴とこれまでの積み重ねを踏まえないサッカーだと批判する声がある。冒頭の西部謙司による記事「積年の課題とハリルホジッチの思惑」は、これまでの日本化を批判しつつ、デュエルを重視するハリルホジッチのサッカーにも勝利への道筋が見えないと批判する。続く、ショーン・キャロルの「英国人ジャーナリストの視点」では、リーダーの存在やサプライズ選考が必要だと言う。宮本恒靖大久保嘉人のインタビューは過去の振り返りはあるが、具体的な提言に欠ける。小野剛は「ベスト16に残れたら、日本全体の勝利」と言う。一方で小澤一郎の「スペインフットボールの思考回路」はラ・リーガの戦術レベルの高さを言い、乾と柴崎に期待する。結局、今の段階で「これぞ勝利へのシナリオ」などというものは誰も確信を持って言えないし、言ったところではったりに過ぎない。今は信じて観るだけしかないのか。

 面白かったのはむしろ地方FCチームの動向。いわきFCの「フィジカル革命」、そして「Jリーグは目指さない」という安田社長のスタンスが非常に面白い。トリニータで活躍した高松大樹は今、大分市議会議員として活躍している。ザスパクサツ群馬の内情は深刻だ。こうして後半はいつものように一気に読み終えてしまった。新刊案内が充実しているのもうれしい。Jリーグ天皇杯も終わり、新たなシーズンの幕開け、そしてW杯が刻々と近付いてくる次号ではどんな特集や記事を読ませてくれるのか。次号も楽しみにしたい。

 

フットボール批評issue18

フットボール批評issue18

 

 

○これまでの主要国際大会では、日本代表は対戦相手にとって予測しやすいチームだった。・・・対戦相手が本大会の何ヶ月も前からスカウティングを行なっていることを念頭に置けば、実際の試合に臨む時にはできるだけ多くのサプライズを打ち出せることが重要となる。/そのために、チームには多様性が欠かせない。・・・いわゆる「ロボット」のような選手たちをシステムに当てはめるのではなく、システムを活性化させるような多様な選手たちが必要だ。(P013)

○欧州の中でもラ・リーガは日本人選手にとって「鬼門」のリーグとなっていた。筆者は一貫してその理由を「ラ・リーガの戦術レベルの高さ」と主張してきたが、乾と柴崎の二人の登場によってようやく日本人選手にとってのラ・リーガの壁も消滅しつつある。逆説的に言えば、筆者は日本代表がW杯本大会でベスト16を超える結果を残すためにはスペインで確かな結果を残せる選手が複数人、コンスタントに出てこないと厳しいという見方をしてきた。(P046)

○安田と大倉。しかし両者の間には、いくつかの重要なコンセンサスが見て取れる。そのひとつが「別にJリーグを目指さなくてもいいじゃないか」というもの。「だって、地方のクラブは儲かっていないし、スタジアムビジネスでも成功していないから」(安田)というのが、一番の理由である。・・・そもそもこのクラブは「いついつまでのJリーグ入り」という発想から最も遠いところにある。というより、そうした発想から完全に解脱しているのだ。/いわきFCは、さまざまな意味において、日本サッカー界のプロテスタントである。そして彼らの存在は、これまでわれわれが無条件に受け入れてきた「常識」に対して、激烈な「否」を発している。(P097)

佐藤一樹FC東京U-18監督は、この大会の戦いぶりから、プロとなり、世界に伍するために不可欠な要素とは、「1対1」だと喝破した。・・・いろいろなチームを観ましたけれど、困ったときはみんな自分で剥がしている。パスコースがないから、周りが動いていないから、何もできない。そういうことではなく、眼の前の選手に“来いよ”と(勝負に挑む)メンタリティが出来ていた。・・・局面を制する力はすごく大事だなと思います(P130)

○「苦手意識があった文化事業にかかわらせたおかげで、選手たちはピッチ内外でより勇敢に行動できるようになった。不得意なことに挑戦する勇気があれば、未体験の状況も恐れなくなり、創造力が発揮できる」/ポッターたちは、選手や監督が苦手なことに気持ちよく挑戦できる文化を育んだ。リーダーには強さよりも信頼が置ける人物である方が重要だと彼は信じている。(P141)