とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

核大国ニッポン

 2010年11月に発行された「もう一つの核なき世界」に加筆して出版された新書版。2009年のオバマ大統領による<核なき世界>を訴えたプラハ演説。そしてその年の10月にはノーベル平和賞受賞。こうして世界は本当に<核なき世界>への道を辿り始めたのか? 一方で、年々拡大するアメリカの軍事予算。放置される劣化ウラン弾を浴びた米軍帰還兵たち。言葉だけのメッセージは却って行動の重要さを際立たせる。プラハ演説後の世界の状況を、アメリカや広島・長崎を中心に多くの人々に取材して、その言葉を並べたドキュメンタリーだ。「スローガンは美しいパッケージと変わらない」。プロローグの終わりに書かれた言葉は本当に真実を語っている。

 原著が発行された直後、日本を東日本大震災が遅い、福島第一原発の深刻な事故が発生した。それを受けて、原発廃止へ動き出した国がある一方、日本は首相が五輪誘致の場で「アンダーコントロール」と嘘をつき、原発輸出ビジネスに精を出している。

 今回本書が出版された背景には、来年7月に期限を迎える<日米原子力協定>への対応があるのだろう。あとがきでは「延長するのか終了するのか」と書きながら、前書きの「新書版によせて」では「ひっそりと延長されるだろう」と書かれている。どうやら<日米原子力協定>の内容には、日本政府が未だに原発を再稼働させようとしている理由が書かれているらしい。今後、来年に向けて<日米原子力協定>の改定が政治的な議論になるのかもしれないが、堤氏にはその先駆けとして、より詳しく、協定の内容と延長について警告する本を出してほしい。

 日本国民は、いや世界世論も同様だが、今やすっかり、隠れて見えない何かによってコントロールされているのではないかという危惧を感じる。事実を事実として知ることの重要性がますます高まっていることを感じる。

 

核大国ニッポン (小学館新書)

核大国ニッポン (小学館新書)

 

 

〇<スローガン>はどんなに美しく聞こえても、単なる入口にすぎない。/そう教えてくれたのは、オバマ大統領と同時期に大統領選に出馬した弁護士のラルフ・ネーダー氏だ。/「自分に都合よく解釈して終わらせるのなら、スローガンはデパートで買ってくる美しいパッケージと変わらなくなる。/空っぽの箱に中身を入れるためには、自ら行動することが必要だ」/オバマ大統領が矮小化した<核なき世界>。(P24)

〇1990年1月。今度は米軍武器弾薬化学兵器部が「劣化ウラン弾に関する長期戦略研究報告書」の中で、兵士が戦場で劣化ウランの粉塵を吸い込んだ場合、放射能と毒性の両方による影響が重大な問題になるリスクを警告した。/劣化ウランの粉塵を吸い込む可能性があるのは、装甲貫通型武器を使用する地上部隊の兵士たちだ。(P32)

〇原爆を落とされた側の日本人なら、それを正当化するアメリカの退役軍人たちを当然責めたくなるだろう。だが彼らにそれを正義だと信じこませたものの存在や、時代背景に何があったのかまですくいあげようとすれば、私たちの想像力は最も厳しい形で試される。/相対的に見なければ、再び同じ過ちが繰り返されそうになったとき、きっとそれを止められないだろう。/アメリカであっても日本であっても、その時代によって出てくる大儀はいくらでも変わる。/歴史を作るのは、常に<人間>なのだ。(P114)

〇ただ<被爆の悲惨さ>を訴えるだけではなく、同時に論理的な提案をすることで、初めて現実を変えてゆけるのです。たとえば安全保障の問題も、改憲するのかしないのか、だけではなくもっとその先を議論する必要がある。/スイスのように軍を保有しながら非武装中立にするのか、コスタリカのように軍を持たない代わりに市民警察を強化するのか?」・・・60年間アメリカにおんぶに抱っこで来たうえに、物質的な豊かさを手に入れてしまったことがこの国の不幸だったのだと、月下氏は言う。/経済力は永遠に続くものじゃない、今こそもっと揺るぎない、国の根幹になる<自治の力>を手に入れるべきなのだと。(P226)

〇スミソニア博物館のハーウィット元館長の言葉がよみがえる。/「私たちは歴史的事実を正確に伝えなければなりません。/結論や解釈まで押しつけてはいけない。良き未来を作るのは次世代の役割なのだから。彼らを信頼して、ただ手渡すのです」/問われているのは私たち大人の方なのだ。/オバマ大統領の<核なき世界>を、<未来を創る>ためのチャンスにどう変えるのか、その選択は、他でもない私たちの手の中にある。(P236)