とんま天狗は雲の上

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先生も知らない経済の世界史

 タイトルで示す「先生」とはいったい誰だろう? 少なくとも、工学系の私のことではないので、私が知らない経済の世界史のさらに先を行った書物なんだろう。どうやら、経済史の分野で通説となっていることをひっくり返す、というのが本書の趣旨のようだが、通説を知らないと、何を力説しているのかよくわからない。

 第1章から第4章まで各5節、計20節に分かれて書かれているが、それらに必ずしも前後の脈絡がないので、なぜこの話題について書いているのか、わかりにくい。例えば、第1章第5節の「ディアスポラ」の節はセファルディムアルメニア人について書いているのだが、彼らが世界経済にどういう役割を果たしたのかが書かれていない。第3章第4節「プロト工業化とは何だったのか」では、プロト工業化論を批判しているが、だから何だというのか。第4章第4節では、ガーシェンクロン・モデルをアジアの工業化を説明するために用いるのは間違っている、ということを主張したいようだが、私にはそれがどういう意味があるのかわからない。

 ということで、全般的に、何が言いたいのか、よくわからない本だった。どうやら自分は世間の通説とは違う経済史に関する知識と意見があるということを主張したいようだが、それは経済史学会でやればいいのでは? こうした新書の形で書き表すような本ではない。ということで、面白いと思う部分もあったけど、全体的によくわからなかったなあ。

 

先生も知らない経済の世界史 (日経プレミアシリーズ)

先生も知らない経済の世界史 (日経プレミアシリーズ)

 

 

アムステルダムでも貨幣市場が発展し、為替手形が流通し、信用決済が増え、預金は政府によって保障されました。このように、オランダでは、政府が所有権を保証したのです。そのためにオランダ経済は発展しました。・・・イングランドは、工業と農業の両方で、生産要素市場と生産物市場の両方で、所有権がより強く確保されるようになります。・・・それは、生産的な経済活動を保護し奨励するような法体系に不可欠な枠組みを提供することになりました。(P42)

朝貢貿易では、朝貢品は朝貢国の船によって中国に運ばれます。中国船は使われません。・・・もしスペインのガレオン船ではなく中国のジャンク船で銀を輸入していたとしたら、中国にとってはずっとよかったでしょう。/ですが、中国は朝貢体制をとっており、海運業は軽視していました。そのため、アカプルコからマニラに至るルートは、ガレオン船が使われたのです。・・・中国はガレオン船に負けたといえるのではないでしょうか。(P94)

○中国の場合、単一市場は、中央集権的な国家権力によって形成されました。それに対して西欧は、アムステルダムを中心とする均質な商業情報をもつ世界が、商人の力によって広がっていったのです。/そのような均質的な空間が、ヨーロッパ各国の軍事力行使もともない、世界中に広がったと考えられます。ですから今でも、商業契約の形態は、ヨーロッパが作成したものをそのまま受け継いでいるのです。(P121)

○数量化革命と呼ぶべき現象は、すでに中世後期からルネサンス期にかけて生じていました。事物の特性を重視する旧来のモデルに取って代わり、事物を数量的に把握するモデルが登場したのです。・・・1250年頃に、西欧にインド・アラビア数字がもたらされたことが、数量化の大きなきっかけになりました。・・・ヨーロッパで財政国家が存在しえた根幹には、計算方法の発展があったはずです。(P123)

○イギリスは、工業生産以外の分野をしっかり手中に収めていたのです。・・・むしろ、世界の他地域の経済成長が、イギリスの富を増大させることにつながったのです。それは、世界の国々が、イギリスの船、電信、保険を使わざるをえないシステムを形成していたからです。/世界の人々は、イギリスが築いたインフラストラクチャーを使用するために、イギリスに手数料を払います。・・・それにより、イギリスは大きな利益をえました。(P168)