とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

世界神話学入門☆

 高校時代の友人がfacebookで「夫が執筆した本」ということで紹介してくれた。神話に強い関心があったわけではないが、半分義理の思いもあって購読した。南山大学の人類学博物館には30代の頃、仕事の企画の一環でお邪魔したことがあった。著者は現在、同大学人類学研究所の所長を務めている。こうしたことも本書を読むにあたって親近感があった。そして読み始めてみると、何と、一昨年読んだ「日本人はどこから来たのか?」の著者・海部陽介氏とともに、「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」に参加しているという。途端に身近な気になってきた。

 筆者の専門は海洋人類学であって、神話研究が第一の専門ではない。だが、ハーバード大学のマイケル・ヴィツェルによる「世界神話の起源」を読んで、世界の神話をゴンドワナ型神話とローラシア型神話に分ける仮説を知り、また直に交流する中で、人類の大移動と世界神話との関係に気付いた。

 本書では、第1章、第2章で、人類の起源とその広がり、そして旧石器時代の文化を説明し、オーストラリアや琉球列島への航海仮説について語った後、世界神話の事例について説明していく。第3章がゴンドワナ型神話群、第4章がローラシア神話群。そして第5章、第6章で日本の神話がいかに世界の神話と共通点を持っているかが説明される。そして最後に、ゴンドワナ型神話の現代的な意義について触れて本編を閉じる。

 確かに、ローラシア型神話は権力者の正統性を説明するために生まれた物語であり、ゴンドワナ型神話はそれ以前の、そもそも人間という存在の意味とあり方を問うている。そして筆者が言うとおり、それは行き詰った現代社会にこそ必要とされる思想なのかもしれない。「ほんとうに人間は動物であり、動物は人間だったのだ」(P269)というフレーズは心に響く。「われわれは人間だけの世界に生きているのではなく、自然界の中で生かされ、自然界すべてのものと意味のある関係をもっている。」(P270)。そのことを再び思い出させてくれた。「いいご主人を持って幸せだね」とWさんに伝えたい。

 

世界神話学入門 (講談社現代新書)

世界神話学入門 (講談社現代新書)

 

 

ローラシア型神話群は世界の無からの創造を語る。次に最初の神、とくに男女神の誕生、さらには天地の分離が語られる。そして大地の形成と秩序化、それにともなう光の出現・・・神々の世代と闘争・・・人類の出現、さらには、のちに貴族の血脈の起源へとつながるテーマを骨子とする。最後には、しばしば現世の暴力的な破壊と新しい世界の再生が語られる。・・・ゴンドワナ型神話群では、世界は最初から存在するのである。(P14)

ゴンドワナ型神話群で中心的に語られるのは、天や地、あるいは原初の海がすでに存在していることを前提にした上で、そこで最初の人間、あるいは動物が、どのような形で生きていたかということである。・・・そこには太陽や月、あるいは雨や風にさえも生命があり、人間や動物とともに地上に住む存在であったという考え方がある。(P91)

○人間は基本的に動物を殺すことに罪悪感をもっていた。と同時に彼らは動物の主、アニマル・マスターという観念をもっていた。・・・多くの狩猟神話は動物世界と人間世界との契約という性格をもっている。動物は自分の命がその物理的な体を超越し、復活の儀式を通して動物の世界に戻るという了解のもと、喜んで命を捧げる、そう考えられているのである。・・・また狩猟社会にしばしば登場するシャーマンも、儀礼の最中、動物に化身する。もともと動物は人間と同根の神秘的な存在であり、その出現や立ち居振る舞い、あるいは鳴き声は、彼らの重要なメッセージを伝えるのだ。(P244)

乱暴やズルは最後には損をするという教訓を、人類は脳の発達によって内面化した。これがモラルの誕生である、そうボームは結論したのだが、私は、この説を知り、現世の狩猟採集民の多くが保っているこのような慣習こそゴンドワナ型神話の基盤をなしていたのではないかと考えるに至った。/しかし鉄器が発達し武器の殺傷能力が高まり、また経済的な不平等が生じ、宗教が不平等を覆い隠すイデオロギーとして機能するようになると、力のある者、能力のある者が権力を握れる社会になっていた。ローラシア型神話がしきりと王や貴族などが誕生した理由を説明しようとするのは、その結果だったのではないだろうか。(P265)

ローラシア型神話には無からの創造という特徴があった。当然、創造するのは神であり、その神は絶対的な存在である。一方、ゴンドワナ型神話では、神的な存在・・・の役割は限定的であり、もともとあった要素を秩序立てるような役割に過ぎない。・・・祖先の聖霊は別に人間たちを支配するわけではない。また人間たちの役割も、常にそれを語り、思い出すことにある。・・・世界は常に流動している。川も海も、雲も風も、太陽も星も。その流れに逆らわずに生きていく。もともと人間も動物も太陽も風も一緒に暮らしていたのだから。(P267)