とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

フットボール批評issue20

 突然の、不可解なハリルホジッチ監督の解任。初めてそのニュースを聞いた時の衝撃を「ハリルホジッチ監督解任って、協会は脳梗塞でも起こしたのか!?」で書いたが、大手メディアは突然の報に驚きつつも、新監督の実績を紹介しつつ、W杯への期待を伝えようとしている。評論家のコメントも、批判するものもあれば、一方でハリルホジッチの進めてきたサッカーの問題点を指摘するものもあり、大手メディアはその点、うまくバランスを取っている。しかし事はそんなに軽いものではないのではないか。そんな思いを抱きつつも、その違和感が声高に聞かれないことに苛立ちさえ覚えていた。

 そして予定どおり5月上旬に発行された「フットボール批評」では、解任決定から出版まで時間がなかったであろうが、しっかりと批評し、批判している。テーマは「日本サッカーは二度死ぬ W杯で勝っても未来には何も残らない」。冒頭の「緊急特集」で、西部謙司氏を始め、3氏による考察記事が掲載されている。正直、みんな戸惑っている。協会の真意を計りかね、実情を想像し、そして怒っている。怒りは連載記事「フットボール星人」(小田嶋隆)や「ボールは跳ねるよ、どこまでも。」(幅允孝)などにも共有され、それぞれ、「2か月後のロシアW杯のピッチにおいて、70数年前に大日本帝国が喫したのと同じ壊滅的な敗戦を歴史に刻むことになる」(P122)、「何でも起こる無秩序な物語にファンは呆れ、飽きて、最後は話題にすらしなくなるのだ。」(P154)と不吉な呪詛を吐いている。そうだ、そこまで怒らなくてはいけないのだ。

 もちろんW杯は楽しむ。そして日本の勝利を願う。しかしどんな結果になろうが、それは未来に何も残さない。いやむしろ日本サッカーの未来のためには、大敗をこそ願うべきかもしれない。はっきりとわかる形で二度死んでこそ、未来は開かれるのかもしれない。

 「サポーターをめぐる冒険」の中村慎太郎氏の連載「サッカーをつむぐ人」は、4月25日出版予定だった「ハリルホジッチ・プラン」の作者、五百蔵容氏との対談を載せている。これはハリルホジッチ解任以前に行われた対談。しかし今読んでも、いや今読んでこそ、興味深い内容に満ちている。出版される予定だった本は「砕かれたハリルホジッチ・プラン」と改題され5月下旬にも出版されることになった。さっそくAmazonで購入予約を入れた。この本を読んで再び、ハリルホジッチ解任で僕らは何を失ったのかを確認してみたい。その上でW杯に臨もう。そしてW杯の結果を総括するであろう次号に期待したい。

 

フットボール批評issue20

フットボール批評issue20

 

 

○監督が意図を選手に伝えきれなかった、積極的な賛同を得るに至らなかった。これに関しては監督にぬかりがあった。しかし、コミュニケーションに問題があると知っていたなら、技術委員を中心に協会側がフォローすることは十分できたはずである。・・・それが監督解任という形になったのは、協会側が監督の強化方針を全く理解できていなかった、あるいは選手に同調して説得する気になれなかった、そのどれかになるだろうか。いずれにしても、この期に及んでメリットのない監督解任は、ハリルホジッチ監督の敗北であるとともに技術委員会の失策である。(P014)

西野監督の言葉を根拠とするならば、前監督が要求する世界基準の“デュエル”や“縦”といったスタンダードを選手たちが満たせないまま、本大会まで2ヶ月というところまで来てしまったということ。その基準をハリルホジッチ前監督が妥協せず要求し続けたら、そこに準備期間を費やしてしまい、チームが組織として仕上がらないまま本大会に入ってしまう。そうした懸念がマリ戦、ウクライナ戦で拡大してしまったということか。あるいは、一切の妥協をしない指揮官に周囲が根をあげてしまった部分もあるかもしれない。(P019)

○参謀長:コロンビア(13位)はFC東京!・・・セネガル(32位)は水戸ホーリーホック!・・・そしてポーランド(6位)は・・・横浜F.マリノス!・・・/総統:なるほど、むむむ……そしてここに挑んでグループ突破を試みる我々は……。/参謀長」はい。日本(44位)は・・・鹿児島ユナイテッドFC!・・・/総統:我々の代表は世界のサッカーにおけるJ3、つまり3部リーグなんだね……。(P118)

○私が「相撲協会よりはずっとマシ」だと考えていた日本サッカー協会は、実のところ日本相撲協会と大差のない閉鎖組織であり、わたくしどもサッカーファンもまた・・・まわりの見えていない「ムラビト」だったのである。・・・われわれは、醜く勝つことよりも美しく敗北することを願っている。ずっと昔から同じだ。・・・おそらく、2か月後のロシアW杯のピッチにおいて、70数年前に大日本帝国が喫したのと同じ壊滅的な敗戦を歴史に刻むことになるだろう。(P120)

ハリルホジッチが取り組んでいた弱者が強者を破るという難しいミッション。それをテストマッチの結果や選手とのコミュニケーションを理由に途中で放棄してしまっては、人はその夢から醒めてしまう。特に日々サッカーを見つめ愛するファンであれば尚更だ。・・・そして、何でも起こる無秩序な物語にファンは呆れ、飽きて、最後は話題にすらしなくなるのだ。(P154)