とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

裸のJリーガー

 「フットボール批評」で連載している「Hard After Hard」を書籍化したもの。既に「Hard After Hard かつて絶望を味わったJリーガー」は出版されており、その続編だが、私は前著を読んでいない。本書を読むと、まさに連載時の執筆そのまま。「連載・・・をまとめ加筆・修正を加えたもの」と書かれているが、それにしては、小見出しを挟んで「次回は・・・について追っていく」、「前回は・・・について聞かせていただきましたが」と連載時の表現が並んでいるのはいただけない。同様の表現は多くあり、「フットボール批評」を読んできた読者には、単行本を買う意味がないなと思わせる。

 内容は、全編を通じて、筆者が追求する「月5万円のJリーガー」の存在とその原因であるとする「J3の創設」について、多くの元Jリーガーにその是非を聞いていくもの。だが、元Jリーガーの答えは意外にそれをそのまま肯定はしない。「Jリーガーはパイオニア」とか「基本的に遊びの世界でしょう」という言葉は、逆に説得力がある。ホーリーホック西村卓朗氏が言う「どんなふうにクラブにお金が入り、そこに強化の予算は影響を受け、それが自分の給料にも反映されることを知っておくというのは大事だと思います」という言葉は、実に正しい。

 もちろん大泉氏も、だからこそ十分な収入も得られない状況のまま、かつ十分な支援もせずに、J3を創設した「公益社団法人 日本プロサッカーリーグ」を批判するのだが、ならば直接「日本プロサッカーリーグ」へ取材するべきではないか。いや既にしているのかな。そしてそうした現実を十分知っている親は、「サッカーじゃ食っていけない」とわが子には他の道を勧めるのだし、それでもJ3の世界に入っていく人がいる現実は、単に元Jリーガーだけでなく、もっと幅広い社会的な研究が必要だ。野球の世界にだって、独立リーグがある。それとの比較もしてほしい。

 本書のあちこちに、心理学的な記述がある。下記に引用した松田直樹の役割に対する記述はその一例。筆者にはこうした知識を基にした取材を中心にした方が面白いのではないか。松田直樹の再評価。ぜひやってもらいたい。

 

裸のJリーガー

裸のJリーガー

 

 

J3を作ったのが早すぎたんじゃないかと思っているんですよ。僕はサッカーを見る人口という決められたパイが、J3を作ることで拡散してしまって、こういう賃金5万円、みたいな選手を作っているんじゃないかと思うんですよ。・・・そうでしょうねえ。お客さんも入らないし、スポンサーさんもつかない、テレビでも多くの人が見られない。そこでJ3というのはねえ。(P26)

○感情的な能力というのは、思考と同様に、あるいはこの母性社会日本においては思考以上に重要な能力である。勘定方の人間はその場の感情を盛り上げたり、まとめたりすることもできれば、他人の感情を揺さぶったり、攻撃したりすることもできる。松田直樹が安永に「嫌なやつ」と言われ「最高」と言われるのも、彼の高い感情能力のなせるわざなのである。・・・そして松田のこの能力は、現役を終えてもサッカー界に必要とされるものだった。・・・我々は松田という存在、そして松田の死の意味を、より掘り下げて考えなければならないのではないか。(P123)

○西村:サッカー選手という時間は、非日常的な時間だと常々思うんですよね。・・・なので、社会と触れる時間がすごく重要だなと思うんです。・・・うちのクラブにしても、給料が上がらないとぼやくだけでは何も起こらないんですよ。・・・どんなふうにクラブにお金が入り、そこに強化の予算は影響を受け、それが自分の給料にも反映されることを知っておくというのは大事だと思います。だからこそ選手はグラウンドで自分の価値を高めることを意識しながら過ごす。ピッチ外の時間では、様々な職種や考えの人と接することを意識して過ごしてほしい。(P174)

○礒貝:基本的に遊びの世界でしょう。遊びの延長で、球蹴って金までもらえて、そういう時代が来たんだなあ、って。いまの人は職業だから、職業ならちゃんとしないといけないけど、遊びだからね。そういう物にしがみつくっていうのは遊びじゃないなあ。すぐやめられるのも遊びだからやめれる。(P246)