とんま天狗は雲の上

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政治の哲学

 タイトルを見て、政治とは何かについて、考察する本だと思っていた。しかし冒頭の第1章で、政治の定義が披露されている。

○[定義]政治とは、人びとを拘束するようなことがらを、決めることである。(P016)

  さらに、続く文章の中で、本書の目的が書かれている。

○民主主義が、設計どおりの性能を発揮するためには、ふつうの人びとが、政治というものについてよく理解し、その原理やメカニズムを熟知していないといけません。・・・本書がめざすのはこの、政治の原理の急所を、しっかり理解することです。・・・そして、ひとりでも多くの人びとが、政治の原理を踏まえて行動すれば、この社会を確実に、よくすることができるのであう。(P019)

 ということで、以下、「市場」「政府」「議会」「政党」「安全保障」「教育」「年金」「医療保険」「家族」「自由」の各章に渡って、実にわかりやすく、平易な文章でそれらの本来の意味や目的と政治との関わりについて書かれている。

 第3講「政府」で開設されるホッブズの社会契約説がまずは基本。そこで語られるのは、自由の拡大のために政府があるという思想。そして第11講「自由」では、「近代社会は人間の自由を根幹とする社会を作るための実験であり、それが自由な社会を支えている」と結ばれている。政治とは自由のための仕組みなのだ。改めてタイトルを見れば、「自由と幸福のための11講」という副題が付いている。まさにそういうこと。

 だが、第5講「政党」では、二大政党制こそめざすべき議会の姿であり、比例代表制と連立政権を批判している。本当にそうだろうか。連立政権は有権者への事前の相談もなく、政策が決められると言うのだが、二大政党制の場合には、いずれの政党も少しずつ賛成できず、結果的に多数の棄権者を生みだすことはないのか。また、うまく二大政党にならなかった場合に、一党独裁や与党内の調整で政策が決定されることはないのか。有権者への事前の相談もなしに。 そのように思いつつ読むと、個別の事項については、意外に筆者の主張が知らず知らず盛り込まれ、誘導されているのではないかという危惧を抱かないわけではない。

 だが大筋で、政治は国民の自由を拡大するための仕組みという理解は大賛成。もっとも今の与党にはそうした認識をもった政治家は少ないような気もする。大丈夫かな。まずは政治家のみなさんが本書を読んで勉強すべきではないのか。当選したら本書をプレゼントしたらどうか。もしくは、本書の内容から試験を出して、合格者しか当選できない仕組みにするとか。

 こうした基本的なことは、本来は小中学校で学ぶべきこと。それが蔑ろにされている状況こそが日本の政治を貧しくしているのだと思う。

 

政治の哲学 (ちくま新書)

政治の哲学 (ちくま新書)

 

 

○契約から権力が生まれる。これが、ホッブズの社会契約説の重要な主張です。・・・契約とは、合意のことです。・・・合意とはなにか。契約とはなにか。/それは、自分の意志です。/人間は自由である。自由は、なにものにも縛られない。ただ縛られるのは、自分の意志である。自分が自由に、こう約束する、と決めて、将来の自分を拘束する。そのことで、自分の自由がかえって拡大する。自由のための、自由の制限。それが、契約です。(P058)

○社会契約は、人びとが大昔に契約を結びました、という空想のストーリーです。/それに対して、憲法は、実際に人びとが集まって、条文を起草したり、憲法であると宣言したりする具体的な出来事です。空想ではなく、現実の政治なのです。・・・憲法を制定するのは、誰か。自分たちの政府をつくろうと決意した人びと、です。・・・憲法の宛て先は、誰か。彼らによってつくられた政府、です。具体的には、その政府ではたらく政府職員です。/憲法は、言うなれば・・・人民から政府にあてた手紙、あるいは命令書、つまり契約、です。(P063)

○大学はもともと、国際機関でした。ヨーロッパでは当たり前のこの常識が、日本ではなかなか通用しません。日本の政治家も官僚も、すぐ「政府の言うことをきけ」という態度になります。国際機関である大学が、ローカルな存在である政府の言うことを聞くいわれはないのです。・・・大学が自立する。これが、大学の再生の、第一歩なのです。(P167)

○血縁を取りのけた家族の本質は、なにか。それは、役割の束、です。家族として暮らし、家族としての役割を果たしたい。そう考える人びとが、家族を構成するのは、自由です。法律は、それを支援すべきで、それを制限すべきではない。これが、これからの家族法の方向だと思います。(P220)

○近代社会は、人間の自由を根幹とする社会を作ってみよう、という実験の成果です。・・・政府は、個々人の自由を制約してはいけない、というのが、近代社会の第一のルール。・・・税金も払うし、法律も守る。・・・これは、不自由なようですが、それが自由な社会を支えるための最低限の仕組みなのです。・・・この二つのルールを守って、市民の義務を果たしさえすれば、あとは自分の人生を自由に生きてください、というのが近代社会です。(P238)