とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

2018年、私の読んだ本ベスト10

 今年も多くの本を読んできた。都市・建築関係の専門書も入れると、全部で89冊。このブログで紹介したのは71冊。去年よりはかなり多い。今年からめぼしい本にはブログ掲載時に☆を付けることにした。それでベスト10の選定は多少はやりやすくなったが、やはり年初に読んだ本は忘れている。改めて読書感想を読みながら、今年にふさわしい本を選んでみた。ただし私にとって。だから昨年より前に発行された本も含まれている。

 

【第1位】天上の葦太田愛 KADOKAWA

 何と言っても今年出合えてよかったと思ったのは、太田愛による一連の作品。今年刊行された「天上の葦」から読み始め、その後、「犯罪者」「幻夏」と読んだが、いずれも面白い。そしてしっかりと社会批判をしている点がすばらしい。新作小説執筆中と書かれて早や半年。待ち遠しいな。取り敢えず、来年のお正月は「相棒」スペシャルでも観ることにしようか。

 

【第2位】砕かれたハリルホジッチ・プラン(五百蔵容 星海社新書)

 今年のサッカー界は日本代表のW杯での活躍に尽きる。決勝トーナメント進出。そしてベルギー相手のアディショナルタイムでの衝撃の被カウンターは後世に語り継げられる伝説の一つになっただろう。だが忘れてはならないのが、その前の突然のハリルホジッチ監督の解任。その直後に本書を読んで、ようやくハシリホジッチがやりたかったサッカーが見えてきた。一方で、ショック療法がW杯の成績につながった面もあるだろうが、やはりきちんとした検証は必要だ。その点ではW杯に発行された「サムライブルーの勝利と敗北」も興味深かった。

 

【第3位】外来種は本当に悪者か?(フレッド・ピアス 草思社

 来年の年初にもまた、「池の水をぜんぶ抜く」TV番組が放送されるようだが、それは正しいことなのか。そもそも外来種と在来種の区分けは正しいのか。本書では、外来種によって豊かな自然を取り戻した事例などが多く紹介され、自然とは何かを深く問うている。変化こそ自然の姿であること、そして人間は自然の前でもっと謙虚であるべきことを知らせてくれる。

 

【第4位】E=mc2のからくり(山田克哉 ブルーバックス

 「社会の真空化、日本の真空化」でも書いたが、「真空」の意味について理解したというのが、私にとって今年最大の知識的収穫だった。真空は何もないわけではなく、「物質」はないけれど、「場」は存在している。本書は「真空」についての本ではないが、アインシュタインの数式を理解しようとすれば、「場」について理解する必要がある。もちろん「場」や「エネルギー」の実体について、私がどこまで理解したかはおぼつかないが、そういう概念があるということがわかっただけでも一歩前進だ。

 

【第5位】異端の時代(森本あんり 岩波新書

 正統とは何か。正統を問い詰めていくと、実は異端から生まれてきたことがわかる。そして現在は異端だらけの時代。一方で、正統になり得るような真の異端のない時代。今まさに「真正の異端」の登場が待たれる。正統と異端を追求していくなかで現代社会のあり方が見えてくる、興味深い一冊だった。

 

【第6位】君たちはどう生きるか吉野源三郎 岩波文庫

 昨年の話題作だが、私は今年になってから読んだから今年のベスト10で紹介する。しかし1937年発行というのに全く色褪せていないのはどういうわけだ。案外、日本人はこの80年間、全く進歩していないのかもしれない。そう言えば微かに軍靴の音が聞こえるような気がする。僕たちはこの新しい時代をどう生きていけばいいのか。その力を僕たちは持っているはずだ。

 

【第7位】国体論白井聡 集英社新書

 いよいよ「平成」も残り4ヶ月になろうとしている。一昨年の天皇の「お言葉」を読み解く中で、象徴天皇制の意味、今上天皇がどう理解し行動をしてきたのかを考える。そして「国体」を考える時、実は戦後、国体のあり方が「天皇」から「アメリカ」にすり替わっていることに気付く。「アメリカが天皇の役をやって、それでよければ、天皇など必要ない」という文章を我々は真に受けて考える必要がある。「平成」の次はどんな時代になるのだろうか。

 

【第8位】世界スタジアム物語後藤健生 ミネルヴァ書房

 今年はサッカー本を多く読んだ。中でも第2位に挙げたライター、五百蔵容と巡り合えたのは収穫。だが、従来からのライターもがんばっている。本書の他にも、加部究「日本サッカー『戦記』」「戦術の教科書」も面白かったが、やはりサッカーライターの重鎮と言えばこの人、後藤健生だ。古代スタジアムの話から可動式ピッチなどの最新式スタジアムまで。そして、戦争や事故とスタジアム。さらにスタジアム移転後の跡地の記憶まで、ありとあらゆるスタジアム話が掲載されている。建築専門家にも楽しめる一冊だ。

 

【第9位】戦国日本と大航海時代(平川新 中公新書

 今年は「歴史」がマイブーム。「英雄たちの選択」は毎週欠かさず観ているし、歴史本も多く読んだ。その中でも本書は、戦国期から徳川期にかけての世界情勢と日本の歴史との関わり、鎖国の意味などを独自の視点から分析しており、興味深い。徳川政権はその強大な軍事力ゆえに鎖国ができた、という解釈は面白い。秀吉の朝鮮出兵もただの酔狂ではなかった。

 

【第10位】世界神話学入門(後藤明 講談社現代新書

 筆者の後藤明氏が高校の同級生のご主人だから、というだけでもない。神話学という学問分野があることを知った。もっとも筆者の専門は海洋人類学。ローラシア型神話とゴンドワナ神話という分類も興味深い。そして神話はいつも社会のあり方を伝えている。神話から教えられることは多い。

 

【選外】

 他にも、ウンベルト・エーコ「女王ロアーナ、神秘の炎」や、藻谷浩介氏の「世界まちかど地政学」もリストアップしたが、分野なども考えつつ選外に。でも今年は面白い本に多く出会った。来年もまたたくさんの本を読んでいきたい。