とんま天狗は雲の上

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米朝首脳会談決裂で思ったこと

 2月27日・28日に開催された米朝首脳会談は、2日目の午後になって、当初予定されていた合意文書の調印は行われず、決裂という結果になった。このニュースを聞いて最初に思ったのは、「金正恩は大した男だ」という感想だった。だがどうやらその後の報道を聞いていると、一定の譲歩で調印できると考えていた金正恩に対して、トランプ大統領がノー!と突きつけ、トランプ大統領はよくやったという評価になっている。同時期にアメリカ国内で開催されたコーエン元弁護士に対する公聴会での証言、今後の大統領選への影響を考慮し、トランプ大統領が決断したという評価だ。

 一説によると、2日目の会議に急遽、ボルトン大統領補佐官を同席させた時点で、既にトランプ大統領は決裂を予定していたという話もある。たぶんそうだろう。北朝鮮にすれば、食糧事情が深刻化する中で、一刻も早く経済制裁の解除を求めたいと思っていただろうが、アメリカ側の強硬な姿勢を見せ付けられ、やむなく合意決裂の決断を受け入れた形だ。

 だがそれで北朝鮮は何を失ったのだろうか。トランプ大統領も会見で述べたように、当面、核実験もミサイル発射も行わないと約束した。加えて、寧辺の核施設についても当面新たな拡大方向への動きはできないだろう。そうした状況の中で、アメリカや西欧諸国からの支援が当面得られないとなれば、次に頼るのは、中国やロシア、そして韓国ではないか。しかも、後日の李容浩外相の記者会見では「民需経済・人民生活関連の5項目だけの経済制裁解除を要求したに過ぎない」と述べている。今後、中国やロシアが北朝鮮のこうした要求に応える方向で動く可能性は高い。

 会談前にトランプ大統領が言った「北朝鮮も非核化すれば、経済大国になれる」という言葉もあながち誤りではない。その果実をいかに自国に取り入れようか、というのは、中国やロシアも虎視眈々と狙っているはずだ。アメリカが放り投げた北朝鮮を次に拾うのは誰か。

 とは言っても、米朝首脳会談はこれで終わったわけではない。今後も継続するとトランプ自身も言っているし、中国なども含めた国際情勢も流動的だ。どう展開するかわからない。そうした状況の中で、アメリカ側の一方的な条件吊り上げに対して、北朝鮮側は冷静に対応し、結論を急がなかったとも言える。

 今回の会談決裂で北朝鮮は何を失い、何を得たのか。今後の情勢変化の中でその結果はまた見えてくるのだろう。現時点では会談以前と以後で、何も大きくは変わらなかった。ただ、トランプの方がバタバタした分だけ、金正恩の方が大きく見えた。それが最初の私の感想になったのだろう。ちなみに、先日の日経ビジネスに、武貞秀士拓殖大大学院特任教授のインタビュー記事「米朝会談の署名阻んだ金日成流の交渉術」が掲載されており、今回の会談決裂は金正恩が主導したものだと述べている。これが本当だとすれば、金正恩の評価はまた変わってくる。