とんま天狗は雲の上

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知ってはいけない2

 「知ってはいけない」ではもっぱら、現在のアメリカに対する日本の属国状態がなぜ現在まで続いているのか、その法的な経緯や現状が説明されていた。本書ではそうした法的状況に陥った原因として、岸首相が同意した「密約」の存在と、日本では「密約などない」という国内向けのウソの答弁と外務省における文書改竄や破棄などにより、却ってアメリカにつけ込まれ、現在の状況に至っていることを、各種の公開文書等により説明していく。

 筆者も文中で何度も言及するように、当時の状況や判断としては必ずしも間違っていたとは言えないかもしれない。だが、時代状況は大きく変わってしまった。現状のきっかけとなった朝鮮戦争もいよいよ正式に終結する可能性が見えてきた。そうした状況下では、そろそろ過去をきちんと清算して、自立した民主主義国家として、世界から尊敬され、認められるような国家運営と政策に舵を切る時が来ているのではないか。そのように筆者は主張する。

 先の米朝首脳会議では、期待された朝鮮戦争終結宣言はおろか、何らの合意もされず、決裂に終わった。これを一部では喜ぶような言動もあるようだが、これを機に必ずや北朝鮮は、中国・ロシアに近付くようになる。そしてそれは相対的にアメリカの覇権を低下させる方向に影響するはずだ。まだすぐには変わらないかもしれない。しかし確実に世界は変わっていく。そして変わったときにひとり、日本だけが取り残される可能性が大いに危惧される。

 本書ではもっぱら岸首相への批判ばかりが書き連ねられており、またオビには「安倍首相の祖父が“日本を売った”」と刺激的な文字が躍っている。しかし、過去を批判するだけではなく、それも視野に入れつつ、現状からどう未来を作っていくかが重要だ。その方策はどこでどう考えられているのだろうか。結局日本は政治的に成熟することなく、経済的にも凋落して、さらには人口も劇的に減少し、極東の三流国になってしまうのだろうか。そうなってもしょうがない。一度そうなった方が日本のためにはいいのではないか。そんな気さえしてしまう今日この頃ではある。

 

 

○「朝鮮戦争がまだ正式に終わっていないことを法的根拠として、米軍が日本の国土と官僚組織を軍事利用しつづける準戦時体制」/それが「戦後日本」という国の本当の姿だったのです。……この「分断された民族の融和」と「核戦争の回避」という誰もが祝福すべき大きな歴史の流れに対して、世界でただ1ヶ国だけ……抵抗しつづけたのが、自国がもっとも核ミサイルの危機にさらされていたはずの日本の首相と外務省だったのです。(P6)

○「政府は国会答弁などにおいて、国民を欺き続けて今日に至っている。だって、本当にそういう、密約というか、了解はあったわけだから」……政府の国会対応の異常さも一因だと思う。いっぺんやった答弁を変えることは許されないという変な不文律がある。謝ればいいんですよ、国民に。微妙な問題で国民感情もあるからこういう答弁をしてきたと。そんなことはないなんて言うもんだから、矛盾が重なる一方になってしまった」(P52)

○岸はやはり国家の指導者として、ひとつ絶対にやってはいけない致命的な罪を犯している。/それは国家の軍事主権をすべて放棄するような密約をアメリカとの間で結んだだけでなく……自分は内容をよく理解しないまま、その密約を「破って捨て」……“最後は度胸だ。自分党政権と日米安保体制がつづくかぎり、アメリカが必ず帳尻をあわせてくれる。……”と考えてしまった……。それが将来的に、日本という国をどれだけ深刻な危険にさらす暴挙であるかということを、岸はまったく理解していなかったのです。(P143)

○日本の憲法9条は、1946年2月にマッカーサー元帥とその部下のケーディス大佐が、「国連軍」とセットの条文として書いたものです。しかしその後、国連軍は実現しないまま東西の「冷戦」が始まり、1950年6月にはついに朝鮮戦争という「現実の戦争」が起きてしまったため……憲法9条を「在日米軍」とセットの条文として再定義しました。……私たちはその歴史的事実を正しく認識し、……少なくとも在日米軍をきちんと法的コントロールのもとに置く、まともな民主主義国として再スタートしなければならないのです。(P241)

○外交というのは、けっして軍事力だけが武器ではない。「論理」と「倫理」、そして「正義」が……大きな力になる。……日本もこの大きな歴史の流れを見失わず、自らの欠点と過去の外交上のあやまちは潔く認めたうえで、世界から尊敬される国になれるよう、少しずつでも変わっていきましょう。/論理と倫理を無視してただ強い者の言うことにすり寄っていれば、自国の安全と繁栄が維持されるという時代は、すでに終わりを告げているのですから。(P272)