とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

観光亡国論☆

 GWに山陰地方を旅行した。GWだからか、それほど外国人の姿は見かけなかったが、京都などではすごい状況になっているという話はよく聞く。一昨年、下呂に行った時も中国人客が多いなあという印象を持った。幸い、私が行きたいと思う旅行先はマニアックなところが多いためか、ひどい渋滞などに悩まされることは少ないが、それでも人出を気にしたり、あまりに観光化されている場所は避けるようにしている。そういえば、一昨年行った金沢はすごかったな。もう一度行きたい気持ちはあるけれど、しっかりと計画を立てなくては。

 ということで、いまや国内旅行も何も考えずに行くと酷い目に遭うことが少なくない。こうした観光公害の現状について第1章でしっかり警告するとともに、第2章以降、宿泊、オーバーキャパシティ、交通、マナーの各問題と、既存文化との関係について、現状を提示しつつ、具体的な対策もあわせて提案している。

 筆者に言わせれば、日本はインバウンドラッシュという状況に対して観光業界も地方も含めた政府も十分な対応ができていない。「観光後進国」という言葉は使われていないが、観光政策については鎖国状態から、今ようやく開国しようとしているタイミングだと言う。バルセロナフィレンツェ、タイなどでは既に、オーバーキャパシティや観光投機による観光公害に直面し、総量規制や誘導対策などの対策を講じていると言う。こうした世界の事例も多く紹介されている。

 数年前、DMOという言葉を初めて聞いた。「観光戦略の策定やマーケティング、マネージメントを一体的に行う組織」ということだが、当時は「それって、観光協会と何が違うの?」と思った。だが本書を読むと、DMOの必要性が理解できる。単なる観光振興のための組織ではなく、規制・管理も含めて、永続的かつ適正な観光振興を進めるためには、こうした組織の存在や総合的な対策の必要性は確かにある。だが、そのことを理解している観光地や自治体はどれだけあるだろうか。日本の多くの地域では単なる観光振興施策として捉えているような気がする。

 本書ではそのことを警告する。かつ、具体的な提案もしている。多くの政治家や自治体関係者にも、「観光立国」と浮かれる前に、まずは本書を読んで、真の意味の観光振興策を進めていただきたい。比較的軽い感じで読み始めたが、しっかりと中身の濃い一冊だった。

観光亡国論 (中公新書ラクレ)

観光亡国論 (中公新書ラクレ)

 

 

○たとえば京都なら、旧市街ではこれ以上宿泊施設を増やせないよう、規制を強化する。一方で御土居の外、とりわけ京都市南部では、「地域コミュニティを壊さない」といったローカルルールを設けつつ民泊やホテルを許可する、といった規制緩和を検討してもいいかもしれない。……宿泊ニーズの増加にまつわる急速な観光投棄への対策を最後にまとめるなら、国による「法律」とローカルの「条例」の使い分けやマネージメントが不可欠で、その上で「規制強化」と「規制緩和」のバランスが重要、ということになるでしょう。(P65)

○富士山のオーバーキャパシティ……には抜本的な解決の余地があります。それは入山料の「義務化」と引き上げです。……そもそも世界の基準からいえば、1000円という入山料も安すぎます。……「世界的に価値のある富士山のために、1万円の入山料を徴収します」と宣言すれば、本当に登りたい人だけが登るようになるでしょう。登山客は10分の1に減っても、入山料収入は変わらないまま、ダメージを10分の1に減らすことができるのです。(P77)

○「便利の神話」が根強い日本では、交通のオーバーキャパシティが問題になっても、行政がそれに触れることを怖がって、なかなか前向きな解決が示されません。商店主たちは「客が減る」、観光客は「名所まで歩かされるのはいやだ」と、こぞって反対します。しかし、そうした車中心の思考は、もはや世界の常識からはずれているのです。……車優先という考え方は、すでに前世紀的な固定観念でしかないのです。(P106)

○人は「看板」があるから、マナーをあらためるのではありません。「看板」を見て、それでマナーに注意を払えるような人は、そもそもマナー違反をしない人のはずです。……まずは看板の必要性を吟味し、必要がある場合は、デザインと位置に留意した上で設置する。それ以外は、相手の常識に任せるしかないのです。……日本は、そろそろそのような成熟した「大人の対応」へとシフトするべき時代を迎えているのです。(P141)

○観光がプラスとマイナスのどちらに作用するかは、結局、市民が自分たちの文化をどれだけ理解し、誇りを持っているかにかかってきます。そして誇りと理解を踏まえた上で、適切なコントロールをかけて文化に向き合えば、文化は観光がもたらす活力を得て、さらに美しく、力あるものへと発展していくこともできるのです。(P162)

○観光立国に大切なのは、質を追求する「クオリティ・ツーリズム」への転換、「分別」のあるゾーニング、そして「適切なマネージメントとコントロール」を目指す、という3つの考え方です。/基本となる理念はDMOと同じで、観光がその地域に利すること。観光が文化をダメにしないこと。そのためのマネージメントとコントロールを創造的に考えて適用しないといけない、ということになります。(P200)