とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

2000万円問題「高齢社会における資産形成・管理」について

 金融庁が公表した金融審議会「市場ワーキング・グループ」による報告書「高齢社会における資産形成・管理」が大きな問題になっている。そもそも「国が国民に対して公的年金以外の資産運用を勧めるということ自体が問題ではないか」と思っていたが、ようやく時間を作って、報告書本文を読んでみた。付属文書を除けばわずか35ページの報告書なので、パラパラと眺める分には5分とかからない。

 それはさておき、そもそも本報告書では、結論に当たる「3.考えられる対応」で、(1)個々人にとっての資産の形成・管理での心構え、(2)金融サービスのあり方、(3)環境整備、の3つの項目が立てられている。一言で言えば、(1)高齢期のことを考えて、公的年金に頼るだけでなく、個人的な貯蓄・資産形成にも努めてね。(2)金融業者は顧客本位の金融サービス提供に努めてね、(3)上記のために行政等は制度の充実やリテラシー向上への取組と高齢者に対する保護とアドバイスに努めてね、と書かれている。言ってみれば至極真っ当なことだ。

 今回問題となっているのは、「2.基本的な視点及び考え方」の中で、「毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる」という一文だ。話題になっているグラフはその前の「1.現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化)」の中の「(2)収入・支出の状況」に掲載されている。

 実は、私が定年前に受講したセミナーでも、某信託銀行の方からほぼ同様のグラフが示されたことがある。その時は「実は不足する分は孫などへ支出する交際費なので、必要最低限の生活は公的年金で可能です」と説明をされていた記憶がある。いや、そもそも貯蓄があるから収入以上に支出するのであって、貯蓄がなければ支出はできない。だから平均的な収入と支出の状況としてこのグラフを提示されても、現在の高齢者の消費性向を説明するだけであり、将来を見越したものでは全くない。そういう意味では、これをもって公的年金制度の不具合を言うのは間違いであり、野党側にも「本当に報告書を読んでいるのですか」と言って然るべきな気もする。

 それよりもたったこれだけのこと、上記の「3.考えられる対応」を提言するだけのために、総勢21名の委員と13の省庁・団体の担当者を集めて、ワーキング・グループを設置していることの方にびっくりする。たぶんこれらの委員の多くは、事務局が用意した報告書案に対して、多少の意見を言ったくらいのことだろうし、単に事務局でまとめるだけでは箔がつかないということでもあるのだろうが、それにしても大仰な・・・。

 国民の個人的な資産形成に対して、金融庁が果たす役割がどれほどあるのか、よくわからないが、平成30年9月に公表された「金融行政のこれまでの実践と今後の方針」では、「金融行政の目的」として、「安定的な資産形成と企業・経済の持続的成長を通じた国民の厚生の増大」が掲げられている。せいぜいその目的に向かってがんばってください。今回の報告書が今後どのように活用され、金融行政に生かされていくのかよくわからないけど。あ、麻生さんが「正式な報告書として受け取らない」と言っている。じゃ、結局、報告書やワーキング・グループ自体が無駄だったということになるのかな。それも何だか違っているような気がする。