とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

世界まちかど地政学NEXT

 「世界まちかど地政学」の続編。藻谷氏はさらに旅を続け、本書ではラオス東ティモールパラグアイ、ニューヨーク、クロアチアボスニア・ヘルツェゴビナモンテネグロセルビア北マケドニアコソヴォアルバニアルクセンブルクアンドラモナコ(ついでにフランスのニース)、レバノン、ヨルダンを旅する。

 第1章のラオスからパラグアイまでは貧困国の実情。祭3章、旧ユーゴスラビア(+アルバニア)の国々は、途中、1日で3か国を回る弾丸ツアー。そして第4章では欧州の極小な公国を巡る。特に第3章などでは強く感じるが、わずか2・3時間の滞在で、歩いて感じ取ったことだけではなかなか本当の姿は見えてこない。本書に記述された多くは、こうした旅での印象に加え、その後に調べた各国の現状を藻谷氏の視点から解説する部分が多い。そういう意味では、旧ユーゴスラビアの国々などは、長く現地で暮らした長束恭行氏の「東欧サッカークロニクル」の方が詳しいし、現地の実情を肌感覚で知ることができる。つまり本書は、藻谷流の経済的地政学の視点から見た世界各国の現状を解説するものである。

 それはそれで楽しいし、これらの国を見た上で、日本の地政学的現状と今後の方向を考えるのもまた一興かもしれない。本書でも、各国の状況を解説しつつ、日本の状況に対する筆者の意見が随所に散見される。ついては、本書のPART3も興味深いが、同様に経済的地政学の視点から日本を解説する「日本まちかど地政学」も期待したい。藻谷氏もまた最近、いくつか本も書いているようだし、それらを読んでみるのも面白いかもしれない。

 

世界まちかど地政学NEXT

世界まちかど地政学NEXT

 

 

○実はラオスでも日本でも労働は、近代以前の農民や職人が確実に担っていた経済的な付加価値の生産機能を失って、単にワークシェアリングの一手法になってしまっているのではないか。会議の席なり店先なりに所在無げに座るという忍耐力を示したご褒美として、「食べていける」ことになっているだけなのではないだろうか。/では実際に付加価値を生んでいるのは誰か。日本では圧倒的に工場の中の産業用ロボットであり(つまるところ化石燃料であり)、ラオスではひょっとしてODAなのかもしれない。(P32)

○それにしても、いままで見てきたSCで売られている商品のほとんどが輸入品だ。……ここ[パラグアイ]での消費は、国内に循環せずに外国に流出してしまう。ではそのお金の出元は? 援助や投資で外国から流れ込んで来たお金だろう。地元の新興富裕層は、自分たちは経済的な勝者だと思っているのかもしれないが、実際には外国から来たお金を外国に戻すポンプ役を果たしているだけではないのか。(P71)

○同じキリスト教の正教を奉じ、キリル文字を使うということでも、違和感はなかった。そんなら同じ国になったらどうかということだが、……歴史的には独立を保っていたモンテネグロとしては、……セルビアが……コソヴォ紛争で西欧をますます敵に回す中、……静かに独立することになった。……人口の3割以上はセルビア人なのだが、モンテネグロ政府が彼らを弾圧するわけでもなく、かつモンテネグロ自体が地政学的に要地でもない。その結果さしものセルビアも「去る者は追わず」だった(P149)

ルクセンブルクは……小さな政府(少ない規制、低税率)の下で国際金融を振興しているが、小国なので他産業の人件費も金融業に引っ張られて高水準となる。……人件費水準は高すぎ、労働力は少なすぎて、そもそも外資系工場は進出してこない。……多言語の素養がある人間でなければ働けないこともあるだろうし、小国すぎて植民地を持てなかったことから……中近東系の住民が流れ込まない結果となっていることもあろう。……しかし、それよりも何よりも、1000年以上前から伯爵領→公爵領→大公領と続いてきた歴史を共有しているという、国民的な一体感が、この国にはあるのではないか。(P208)

○「俺たちレバノン人は、お客さんには親切でオープンだ。でもみんな四六時中、まさに計り知れないストレスの中を生きているのさ……わかるかい?」と……しみじみとした口調で語るのだった。/確かに、シリア難民も、イランの支援を受けイスラエルの介入を招く道をひた走っているヒズボラも、もともと外国由来のものであって、レバノン人にはどうにもできない。異なる者同士が共生するというレバノン数千年の知恵は、宗教的信念の前に削られるばかりだ。(P267)