とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

経済成長なき幸福国家論

 「世界まちかど地政学NEXT」を読んで、最近の藻谷氏の本を読もうと思った。とは言っても、本書は2017年9月の発行だし、平田オリザとの対談本。対談本の常として、どうしても話題がしっかりと煮詰められることなく流れていってしまう。物足りない部分も多いが、彼らとて演劇や地域経済に係る講演等を行う中で感じたことを話しているので、理路整然としていないことを批判するわけにもいかない。

 例えば、平田オリザが再三「自己決定力」の重要性を語るのだが、自己決定力とは具体的にどういうもので、なぜ重要で、どこまで必要なのか、ということまではよくわからない。というか、具体例を話し始めると、いつの間にか別の話題になっていたりする。

 本書の流れとしては、人口が減少し、かつてのような経済成長が見込めない時代にあって、東京中心の発想よりも、地方の活力に学ぶことの必要性を語り、演劇の教育効果や地方ゆえの人間力向上に係る優位性を述べる。だから、無理をせず、自分らしさを伸ばして生きていこうという。

 だが、最近、この種の提言に対して個人的に気になっているのは、ブログ「世に倦む日々」氏の批判だ。ブログ主は「右肩上がりの時代は終わった」という左翼学者を批判し、内部留保と配当金とタックスヘイブンマネーを取り返せば、日本は現在の倍は成長していたはずだと言う。(「三位一体―GDPの長期低迷、賃金の削減と抑制、内部留保の絶倫増殖:世に倦む日々」

 経済政策批判と幸福国家論を同一の土俵に並べることの間違いも理解はしているが、それでも心は二つに引き裂かれる。もっと貪欲に。かつ、もっと慎ましく。両方の言説に惹かれ、両者を追い求めてしまう。いや、同一の土俵ではないのだから、両方を追い求めればいいのだ。心も豊かに、財布も豊かに。そしてみんな幸福に。

 

経済成長なき幸福国家論 下り坂ニッポンの生き方
 

 

○【藻谷】人数の多い団塊ジュニアは……子どもにも「負けるな、勝ち逃げしろ」と教育する傾向がある。ですがいまの子供たちは、団塊ジュニア世代の半分しかいない。彼らの課題は目先の競争に勝つことではなく、今後の下り坂の時代を、周りと共に楽しくしぶとく生き抜くことなのです。……先行逃げ切りはありません。常に楽しみながら工夫して努力できることが、下り坂の時代の処世術なのだと思います。(P47)

○【平田】これまで最大の出費はエネルギーだったけれど、いまはこれがどんどん減っている。長野県は2050年までにエネルギー自給を達成すると言っています。……もちろん基幹産業は必要で、外貨も必要だけれど、お金(現金)がなんで必要かというと、一番は教育なんです。……だから教育と文化を自給できるようになると、エネルギーの次の支出を抑えられる。教育の無償化は特に地方にとっては大きな方策なんですね。(P93)

○【藻谷】最近のものづくりの技術革新は……省エネ、少量、軽量の方向で製造費用を低下させる、つまりは金額換算された経済規模を縮小させるものばかり。……ところが経済学者の多くは、「イノベーションで経済は成長する」と語る。……実は、彼らの言う「イノベーション」とは……経済を成長させるもの」という意味なんです。……これは単なる同義反復(トートロジー)にすぎません。(P106)

○【平田】演劇は、教育として一番いいところは何かと言えば、役割分担ができるようになるっていうことです。私はよく演技教育を導入する先生方に「おとなしい子に無理して声を出させないでいいですよ」と言います。おとなしい子は「おとなしい子」って役を演じたら一番うまいんです。/いろんな人がいないと演劇はうまくいかない。……実際に、演劇を教えると、リーダー層の生徒たちも、どうやっておとなしい子をうまく使うかを考えるようになるんです。本当の意味でのリーダーシップを考えるようになるんですね。(P169)

○【藻谷】人口が半減の方向に向かって減っていて、エネルギーと食料が足りる方向に向かっている日本の将来は、本当は明るいわけです。自信を持って、堂々と自己決定をして、コミュニケーションしながら仲間をつくって暮らしていけばいい。……「他者を蹴落とさないと生きていけないという発想は前世紀の遺物」「東京になりたがるな」ということが本当に一番言いたいことです。(P179)