とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

池の水ぜんぶ”は”抜くな!

 相変わらず「池の水を全部抜く」テレビ番組が続けられている。昨年読んだ「外来種は本当に悪者か?」は面白かった。この指摘を日本の現状に照らして考察したものが本書。外来種と在来種の境は非常に曖昧であること。在来種の減少は必ずしも外来種のせいばかりとは言えないこと。特定の外来種を駆除することで、かえって在来種を減らす結果となることもあることなど、日本の事例を紹介し、場合によってはうまく外来種も活用しながら、多様な生態系を守っていく必要があることを説明する。

 執筆は、「月刊つり人」の記者としか書かれておらず、池田清彦が監修として、ところどころにコメントが紹介され、また第7章は池田氏のインタビュー記事となっている。わずか127ページで字も大きく、写真も多いことからあっという間に読み終えることができる。しかし主張していることは明確だ。しかも「はじめに」であっさりと以下のように記されている。

○本書の主張をシンプルにまとめてしまえば、外来種問題は「ケース・バイ・ケース」で考える必要があるのではないか、ということになる。駆除すべきものは駆除し、共存可能なら共存していくのが、今後のありかたではないだろうか。……そもそも人の手が加わっていない環境は、すでにこの日本にはない。多くの生物種が、人が支えてやらなければ生きていけなくなった今……外来種がいることも含め、この日本の自然をよりよいものにしていくことが、今は必要ではないだろうか。(P6)

 そういうこと。そして第7章には、外来種駆除は「ナチスの優生思想に通じる」とまで書かれている。テレビの「池の水を全部抜く」関係者をネトウというつもりはないが、わかりやすい主張は多くの場合間違っている。そのことを自戒する意味でも外来種駆除は慎重でなければならない。コイやモンシロチョウを外来種だと言っているうちに、自分自身が外来種として差別され、排斥されることだってあり得る。世界はけっして単純ではない。

 

池の水全部“は”抜くな!

池の水全部“は”抜くな!

 

 

○コイは外来種という話もあるが……日本に入ってきたのは正確な年代が不明なほど大昔……モンシロチョウは、奈良時代に作物と一緒に日本に入ってきたとされています。……しかしモンシロチョウを外来種だと思っている人は、あまり多くありません」(P12)

○外来魚の影響が叫ばれる琵琶湖だが……むしろ琵琶湖における在来種の減少は……公共事業により、環境の人為的改編と同じ時期に始まっている。……ちなみに滋賀県によれば、外来魚(オオクチバスブルーギル)の資源量は移入された当初は増えたが、その後は減少して安定している。(P36)

○「これは金沢の池の例ですが、池の水を抜いてブラックバスを駆除したところ、ブラックバスのエサだったアメリカザリガニが増えてしまったケースがありました。結果的に、在来種のゲンゴロウがザリガニに食べられて減ったそうです」……池の水を抜いて……在来種を減らしてしまったのなら、なんのために池の水を抜いたのかわからない。(P57)

○日本の今の風潮として、外来種を駆除しましょうというほうが、受けがいい。……しかし、それではやはり問題があります。科学的に考えて、どのくらいは許せてどのくらいは駆除すべきなのか、あるいは駆除するにしても、費用はいくら必要で、その効果がどのくらいなのかは考えるべきです。ただ闇雲に駆除しても仕方ありません。……これは、ある特定の人種は劣っているとか、悪いことをするから殺してしまえというのと同じで、とても危険なことだと思います。(P120)