とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

いちから聞きたい放射線のほんとう☆

  この本をどこで知ったのだったか。池澤夏樹「科学する心」かな? 福島原発事故から3年後、2014年発行だから、世間では放射線騒ぎもひと段落し始めた頃。しかし事故当時の情報の嵐の中で、これまで聞いたことがなかったシーベルトやベクレルといった言葉が飛び交い、不安に陥っていた。最近になって汚染水の放流という話が出てきたが、これもどう評価したらいいかわからない。

 本書ではトリチウムについては触れられていないが、そもそも放射線とは何か。α線(ヘリウムの原子核)・β線(電子)・γ線(光)の違いと、それらが人間にどのように害を及ぼすのか。物理学的半減期と生物学的半減期の違い。さらに、ベクレルとシーベルトの意味。シーベルトには等価線量と実効線量の二つがあり、食品は体内に入った後の被ばく量のトータルを計上する預託実効線量で規制している。さらに、空間線量率は1時間当たりの実効線量を測定・計算しており、シーベルト毎時で表す。など、第1部「放射線ってなんだろう」では、こうした基本的な事柄を対談形式でわかりやすく説明している。

 第2部「放射線とわたしたち」では、こうして測定された様々な数値をどう評価し、今現在、どう生活したらいいのかを話し合う。大きく言えば、現在の政府の規制と規制緩和の状況は概ね安心していいという評価だが、リスクの捉え方は人ぞれぞれだから、絶対大丈夫とか一概に決めつけたりはしない。一方で、地元テレビ局の社員が1年間積算線量計をつけて生活したデータからも実際の被ばく量は心配していたよりもはるかに少ないという事例も紹介しており、安心感を持つ。また、筆者である小峰さんの実家の除染前後の空間線量率の測定結果とその時の経験も載っており、参考になる。

 ということで、ひとまず一安心するのだが、それよりも衝撃的だったのは、1950~60年代の大気圏内核実験がバンバンやられていた時代にばらまかれたプルトニウムが今も我々の周りや体内に残っているという話。そんな中でも生きている人類っていったい? だからと言って、汚染水放出は大丈夫だというわけではない。いくつかのブログを読むと、トリチウム汚染水の放出は十分な管理の上に実施すれば可能かもしれないが、現状、トリチウム以外の放射線が汚染水に多く含まれている可能性があり、その点が問題ということらしい。

 まずは本書で基礎知識を勉強。そして、現在の様々な問題を考える。その意味でも本書のようなわかりやすい書籍の存在は貴重だ。

 

 

α線でもβ線でもまずは細胞の中の原子や分子に次々とぶつかって、電子をはじき飛ばす。……電子がはじき飛ばされると、最後には活性酸素ができる……活性酸素はほかの分子と反応しやすくて、DNAを傷つけるんだ。/放射線が直接傷つけるんじゃなくて、そういう仕組みだったのか。(P94)

○食べてしまった以上、それだけの被ばくが避けられないんだから、被ばく量を先取りして勘定しちゃおうと考える……。これを預託実効線量といって、食品による被ばく量は、この預託実効線量で考える。……年間の預託実効線量が1ミリシーベルトにならないよう決められている(P113)

放射線が当たっただけなら、汚染されてはいないよ。放射線はあとに残らないから。汚染されるというのは、放射性物質そのものが付いた場合。……たくさん飛んできたとき、窓が開いてたり換気扇を回してたりしたら、部屋の中に放射性物質が入ってきた可能性はあるね。もちろん、それは事故直後の話で、福島市郡山市だって、今はもう放射性物質が漂ってるわけじゃないから。(P130)

○妊娠中に100ミリシーベルト以上被ばくしなければ、リスクは上がらない。……がんの場合は、被ばく量と比例するという話だったけど、被ばくが原因で障害が出る可能性はゼロと考えていいということですね。……出産に関して言えば、福島にいてもどこにいても、違いはないと(P155)

○大気圏内核実験の時代……1950年代なかばから60年代なかばにかけての10年間くらい。……その頃に降ったものがまだ地面に残ってる。精密に調べれば、全国どこの地面からでもプルトニウムが検出されるはずだよ……1963年にはセシウム137もストロンチウム90も、毎日2ベクレルとか3ベクレルとか食べていたみたいだよ。このとき食べたストロンチウム90は、僕らのからだの中にまだ残ってるはず(P162)

○100ミリシーベルトよけいに被ばくすると、がんの危険性が0.5パーセント増えるから、行政としては対策を考えなくてはならないんだろうね。いっぽう、年間1ミリシーベルト増える程度なら、これをさらに下げようとがんばっても、努力に見合うほどリスクが小さくならない。それなら、無理しない方がいいんじゃないか、というところだね。(P183)