とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

フットボール批評 issue26

 今号の特集は「今、一番面白いフットボールの正体」。仲川輝人やマルコス・ジュニオールなど横浜F.マリノスに関わる人々へのインタビュー記事などが多く掲載されているのだが、目次に続く特集の冒頭は以下のような文章で始まる。

風間八宏名古屋グランパスの職を/”革命前夜”にして解かれ、またひとつJリーグから/中毒性が横溢した面白いフットボールが姿を消した。/合法的にキメられる要素がまだ足りない/日本のフットボールシーンにおいて/多大なる損失といえなくもない。(P4)

 「フットボール批評」誌はかねてから風間八宏推しではあったが、あのままグランパスの監督を継続していたとしたら、どんな”革命”が起こったというのか。「合法的にキメられる要素がまだ足りない」という一文も何を意味しているのか、不明だ。グランパスの小西社長の中毒が解かれ、サポーターはようやくホッとしているというのに。風間八宏の監督解任が日本のフットボールシーンの損失だというのならば、グランパスのJ2降格は大した損失ではないということか。私にはチョウキジェ氏の監督解任の方が損失の度合いは大きいのではないかと思うのだが。

 というのが、グランパス・サポーターとしての思い。でも、マリノスの特集はそれなりに面白かった。だがそれにも増して、「コソボ・レポート」や「ウニオン・ベルリンの真実」も興味深い。今季ブンデスリーガに昇格した「1FCウニオン・ベルリン」の陰に、ベルリンの壁に翻弄されたもう一つの「ウニオン・ベルリン」があった。

 また、「渋谷に聖地は誕生するのか?」は、代々木公園の再整備構想に関する記事。「世界に向けて東京を発信」するという壮大な構想は果たして現実のものとなるだろうか。はっきりとは書かれないが、町田ゼルビアの改称騒動が頭をよぎる。さらに、元Jリーガー井筒陸也とイラストレーターloundrawとの対談「『フットボールとは何か?』を考える」は哲学的で、この記事だけでは何が言いたいのか、単に稚拙なだけなのかよくわからないが、よくわからないなりの面白さを感じる。

 ということで、けっこう内容的に変わったような印象を受けた。と思ったら、今号から編集長が交代していた。前任の森哲也氏は2007年から編集長を務めていたとのこと。この間、「サッカー批評」から「フットボール批評」へ変わるなど、色々な変化があった。「批評精神を支え続けて13年 森哲也編集長の退任に寄せて:宇都宮徹壱ウェブマガジン」によれば、森氏が編集長を務めた最初の「サッカー批評」はドイツW杯の惨敗を受けて、「オシムを殺すな」という特集タイトルだったとのこと。それから13年、日本は南アフリカ大会でベスト16に進出し、ブラジル大会で惨敗し、そしてロシア大会でもまたベスト16で敗退した。「カタールW杯アジア2次予選に臨む日本代表のメンバー選考を問う」という記事もある。森氏の批評精神は引き続き引き継がれているようだ。本誌が今後どのように変化していくのか。日本代表、そしてJリーグを始め日本サッカー界の変化とともに、今後も楽しみにしていきたい。

フットボール批評issue26

フットボール批評issue26

  • 発売日: 2019/11/06
  • メディア: 雑誌
 

 

○1950年6月、『SCウニオン』は西ベルリンへと脱出…1950年はソ連支配下とはいえまだ壁はなく、東西の行き来は自由だった…東側に残ったファンたちは“越境”して…試合にかけつけていた。…そして運命の1961年8月13日日曜日…突然できた壁…『06ウニオン』の選手の一部がプレーした…クラブを旧東ドイツの“労働者クラブ”にするために、『06』の歴史を引用して『1FCウニオン』は創設されたのだ。旧東ドイツ政府によって。…だからスシーシェは「名前を盗んだ」と怒ったのだ。(P61)

○ただパスを通すことはフットボールではありません。自分と誰(何)かと、その仲立ちをするフットボールの全体の中で、それが意味深いという確信のもとパスを出すことこそがフットボールです。…だから、部分を拾い集めることではなく、全体を見得る視座によって定義し、その実行としてのプレーに意味を持たせる必要があるのではないか。そういう営みの中にこそフットボールの可能性があるのではないか。(P93)

シビックプライドを育むには「場が重要だ」…場があることで魂が宿り、人をつなぎとめる重要な拠りどころとなる。…渋谷から世界に向けて東京を発信していきたいという壮大なプランを金山は持つ。「…僕の考えでは圧倒的に突き抜けた街が日本に登場することが大事。そのための代々木公園のアップデート、新スタジアムの建築プロジェクトです」(P101)

○身もふたもない言い方をすればコソボは東部のボンドスティールに米軍基地を建設したかったアメリカが…それまでテロリストと認定されていたコソボ解放軍と…手を組み、NATO軍の空爆を敢行してセルビア治安部隊を撤退させた。アメリカ政府がまさにコソボ建国の立役者である。…6つの星を描いた多民族国家を標榜しながら、実質は…隣国で…るアルバニアとの合併をマニュフェストとして唱える政党が大きな支持を集めている。(P123)

リバプールは1979年に2年間で約200万円の契約金で日立とスポンサー契約を結ぶ。あまり知られていないかもしれないが、これはイングランドトップリーグにおけるスポンサー契約の事例では初めてだと言われている。当時の時点では、クラブと企業がスポンサー契約を結ぶ事例はほとんどなく、むしろFAが規制していた時代背景すらあった。(P131)