とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

宝島☆

 今年1月に発表された第160回直木賞受賞作品。図書館に予約し、ようやく順番が回ってきた。沖縄の戦後を舞台にした小説だということは知っていたが、ここまで壮大な作品だとは。将来に語り継げられる作品。沖縄の歴史を知るためにも、読んでおくべき本だ。

 戦後の沖縄の歴史、特に占領期の歴史は本土にいてはほとんど見聞きすることもない。戦果アギヤー、沖縄刑務所暴動、沖縄ヤクザの抗争、宮森小学校米軍機墜落事件、キャラウェイ旋風、教公二法阻止闘争、コザ暴動など、実際の事件を背景に、屋良朝苗や瀬長亀次郎、喜舎場朝信、又吉世喜などの実在人物も登場する。

 米軍占領期の絶望的な状況の中で、グスク、ヤマコ、レイらは、伝説の戦果アギヤーであるオンちゃんを探し求めつつ、それぞれの人生を生きていく。直木賞作品らしく、密貿易団クブラや秘密情報組織マーシャル機関なども絡み、黒石島の仮面神ボゼやウタキとユタやノロなど沖縄独自の信仰や文化も登場する。そして最後にオンちゃんが、そしてウタの秘密が明らかになる。

 「宝島」というタイトルも意味深だ。沖縄にとっての宝は、人々の心の中、生き様の中にこそあるということか。また、筆者が沖縄とは縁のない東京生まれだということにも驚いた。沖縄の歴史は筆者の心を揺すり、そして我々の心を揺さぶった。しかし、沖縄の宝が真に光り輝くのはいつの日か。それはまだ、人々の心の中に埋もれているようだ。

 

第160回直木賞受賞 宝島

第160回直木賞受賞 宝島

 

 

○それでは、先の戦争で日本軍がとった玉砕戦術と変わらない。これからの闘争はどんな局面でも、玉砕であってはならん。生きて前進することでしか輝かしい“戦果”は得られん。それを世界のどの民族よりも知っているのが、われら沖縄人ではないかね」/「あんたは気づいとらん。…最後まで戦わなかったら、いっときはおいしい条件を出されても、すぐに飼いならされて悲惨な暮らしに逆戻りするだけさ。(P118)

○「ニイニイたちじゃ頼りない、あたしがこの島の英雄になるよ」…グスクの瞳には、救いの手をもう望まないと誓った女の表情が映っていた。それはだれかに与えられる幸福にすがるのをやめた女の顔だった。夢想と現実が入れかわる奇跡でも起きないかぎり、消えることのないかたくなさを宿した顔だった。/オンちゃんは、もういない。/だったらだれかが、島のために闘わなくちゃならない。/成長する子どもたちのためにも、故郷で生きる自分たちのためにも。(P232)

○ヤマコちゃん、暗い感情に呑みこまれたらならん。恨みや憎しみで目を曇らせたらならんよ」…痛みをやわらげてくれるおばあたちの叡智もまた、歳月をまたいでこの故郷に受け継がれてきたものだ。こんな夜にはそのにぎやかさや鷹揚さが、連帯の深さがありがたかった(まぎれもなくそれは沖縄のとびきり価値あるものに数えられる。たびかさなる弾圧や戦争を生きのびた年寄りが口にする“なんくるないさ”に勝るほどの助言はそうそうあるもんじゃないさ)。(P346)

○ほんとうにうんざりだ。アメリカーも日本もどちらもどちらだ。おためごかしと保身と嘘八百とそろばんずくの事後処理に、おれたちはいつまで翻弄されるのか、いつまで混迷を強いられるのか。沖縄人たちは怒りを渦巻かせながらも、疲れはて、打ちひしがれ、嘆きやあきらめに胸を焼いていた。…わかりきっていたことだった。施政権が返還されたところで、基地は残る。核も残る。毒ガスも残る。ならずものと嘘つきはのさばりつづける。(P460)

アメリカーが、日本人が、この島でどんなに愚かなことをしてきたか、ふたつの国が奪っていった故郷の宝がなんなのかを叫んだ。…この世を存続させてきた愛の正体を知るものがいるとしたら、それはおれたちだ。ここはまぎれもなく沖縄の土地だ。戦果アギヤーが数えきれない愛を配ってきた土地だ。だからここでおれたちが全滅したところで、戦果アギヤーは何度でもよみがえる。魂のなかの英雄が転生をくりかえす。…この島の人たちだけが正真正銘の英雄を知って、愛を与えるものになれるのさ。(P513)