とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

読書

言語の本質☆

言語とは何か。本書の中ほどで、言語学において論じられている「言語の原則」として、コミュニケーション機能、意味性、超越性、継承性、習得可能性、生産性、経済性、離散性、恣意性、二重性という10のキーワードが紹介される。 筆者の今井むつみ氏は発達心…

時間の終わりまで

タイトルを見て「時間論」かと思って借りてしまったのだけど、実際は「宇宙論」。宇宙の始まりから、その終わりまで、時間軸に沿って、何が起きるかを綴っている。筆者は、超弦理論を研究する物理学者。欧米では科学の案内人として著名な人だそうだ。 だが、…

「単純化」という病

安倍政権下で起きた3つの事件。森友学園、加計学園、そして「桜を見る会」の問題について、それぞれ筆者が詳細に分析をして見せる。前2件は与野党対立の中で、本来の問題から離れ「単純化」された結果の騒動だったと整理する。一方、「桜を見る会」は、首相…

コロナ漂流録

「コロナ黙示録」、「コロナ狂騒録」に続くコロナ3部作の完結編となるのか。「事実は小説よりも奇なり」はこれまでの2作品の感想でも書いたことだが、本書においても同様、小説のような事実を小説のように書いてみた。 本書の中心となる事件は安保首相の暗殺…

国籍と遺書、兄への手紙☆

先に読んだ「差別の教室」に続いて、「差別」関係の本を読んだ。だが、筆者の立場は180度違う。前著は、筆者が様々な海外の国々で生活する中で、差別を受けたり、逆に知らず知らず差別をしてしまう経験を通じ、自身が差別をする側として「どうすれば差別をし…

差別の教室

「差別の教室」というタイトルからは、社会学や心理学などの立場から、差別する意識や社会構造などを解説する本かと思った。だが、筆者は元新聞記者。中央大学で3年間にわたり、計21回、「差別」にかかる講義を行った。そういう意味で「教室」なのだが、海外…

夜明け前(が一番暗い)

久し振りの内田樹。本書は2018年7月から2022年11月まで、AERAに連載されていたコラムを集めたもの。いずれも短いので、読みやすいとも言えるし、物足りないとも言えるかも。まあ、いつもの内田節で、どこかで読んだような内容のものも多いが、なるほどと思う…

サッカー派の日本観

60歳以上の男性は大半が野球派と思われているかもしれないが、サッカー派も少なからずいる。筆者の年齢は書かれていないが、略歴などを読むと、私よりも少し年下の60歳前後か? 高校時代、サッカー部だったようだが、その後は日本の商社、さらに外資系会社に…

我々はどこから来て、今どこにいるのか? 下 民主主義の野蛮な起源

上巻「アングロサクソンなぜ覇権を握ったか」と読んで3ヶ月。ようやく下巻を手に取った。やはり読みこなすには難しいし、特に下巻では、アメリカとイギリスとフランスの民主制に対する視線の違いが一つのテーマになっており、その微妙なニュアンスは日本にい…

「戦前」の正体

筆者の辻田真佐憲は1984年生まれ。まだ30代だが、「戦前」の事柄についてよくここまで調べたものだ。私などは、学校教育ではほとんど戦前のことは教えられず、一方で、戦前に生まれた父母や祖父母から戦前のことを聴いて育った。そのため、天皇皇統譜もある…

戦後日本政治史

終戦直後から、安倍晋三元首相が殺害されるまでの日本政治史を年代順に淡々と記述する。私が覚えているのは佐藤栄作の退任時のテレビ放送からだが、もちろんそれ以降も日本の政治状況を注視していたわけではないので、本書を読みながら「そういうことだった…

面白くて眠れなくなる日本語学

筆者は「中国文献学」の研究者だそうだ。言語学者ではない、ということか。日本語の創造と変化や世界の他言語との関係など、日本語に関するコラム34編で構成されている。 最も興味を持ったのは、本居宣長への評価。彼は古書を通じて、当時の状況を知るべく、…

見果てぬ王道

「熱源」では明治初期のアイヌの人々が、「海神の子」では鄭成功が描かれた。いずれも実在した人物を元に書かれたフィクションだ。そして本書の主人公は梅谷庄吉。香港で写真館を営み、孫文を金銭面で支えた商人だ。もちろんそんな人物がいたことすら知らな…

白鶴亮翅☆

昨年、「地球にちりばめられて」からの3部作が「太陽諸島」で完結した。その後、しばらく時間を置くかと思ったら、「パウル・ツェランと中国の天使」、そして本書と、今年に入っても多和田葉子の作品の出版が続く。もっとも本書は、昨年前半、朝日新聞で連載…

旧約聖書がわかる本

旧約聖書は一度終わりまで読んだことがある。だが、新約聖書の「愛の神」に比べ、すぐに怒るし、報復するし、他の民族を滅ぼす。いやイスラエルの民をも滅ぼそうとする。民族神とはそういうものかとも思ったが、やはりよく理解できなかった。 本書は作家であ…

君はなぜ、苦しいのか

石井光太にはこれまでのようなルポルタージュを期待したが、本書はそうではなく、子供向けに書かれた本だ。と言っても、内容はなかなか難しい。誰でも読めるわけではないだろう。それでも、苦しんでいる子供が本書を手に取って、苦しさの原因が自分にはない…

からだの美

「外野手の肩」「ミュージカル俳優の声」「棋士の中指」「ゴリラの背中」・・・。さまざまな人や動物のからだの一部を取り出し、その心象風景を描いていく。2020年から2021年末まで、16回にわたって文藝春秋で連載したエッセイを収録したもの。エッセイは全…

諦念後☆

小田嶋隆と言えば時事コラムが有名だったが、昨年の今頃亡くなって以降、もちろん新規のコラムは書かれないし、昔のコラムを読み返そうという気にもなれない。あれほど批判していた安倍元総理も死んでしまった。しかし本書はこれらの時事コラムとは違う。還…

一億三千万人のための『論語』教室☆

図書館で借りた、または購入した本を読み終わって、次の本がない時に、少しずつ読んできた。本書の発行が2019年なので、読み終わるのに3年以上かかってしまった。その間には半年以上、放っておいた時期もあった。でも、筆者の高橋源一郎は20年かかって、この…

また会う日まで☆

図書館で先に読んだ「水車小屋のネネ」を返して、本書を受け取った。分厚い。「水車小屋のネネ」も厚くて驚いたが、本書はさらに厚い。「水車小屋のネネ」は毎日新聞で1年間連載された小説だが、本書は朝日新聞で1年半連載された。道理で厚い訳だ。だが、池…

父ではありませんが

集英社の読書情報誌「青春と読書」で連載されていたエッセイの単行本化。今、話題の少子化対策や子育て論を、子どもがいない夫という立場から論ずる。という内容かと思ったが、必ずしもそれだけに留まらず、「第三者として考える」という副題のとおり、何事…

水車小屋のネネ

最初、本を手に取ったとき、「えっ、こんなに厚いの!」と思った。あとがきに「自分がこれまで書いた小説の中で、もっとも長い作品を手に取っていただいてありがとうございます」とある。485ページ。確かに長い。だが意外にすらすらと読める。1981年、1991年…

当事者は嘘をつく

修復的司法の研究者である筆者による回顧録と言えばいいだろうか。修復的司法とは、被害者と加害者の対話を中心に問題解決を図る取り組みのことである。これにより、被害者の精神的ダメージからの回復と、加害者の再犯抑止の効果があるという。本書は別に修…

コソボ 苦闘する親米国家☆

ストイコビッチがJリーグのゲームで「NATO STOP STRIKES」と書かれたTシャツを見せて注意を受けたことは今も覚えている。「誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡」で文壇デビューして以降、木村元彦は継続して、ユーゴスラビアを構成した国々のその後を追い…

我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上 アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか

エマニュエル・トッドの評論は、(人によって賛否両論あるだろうが)けっこう的確で面白い。一方、本人の専門である歴史人口学・家族人類学に関する本はいずれも大部で読み通すのに難渋する。「文明の接近」と「帝国以降」は読んだが、5年前に「家族システム…

女子サッカー140年史

1968年、メキシコ五輪で男子サッカー日本代表が銅メダルを獲得した。その影響もあって、翌年、中学校へ進学するとサッカー部へ入部した。訳者の実川元子による「あとがき」を兼ねた「日本女子サッカー小史」によれば、1966年に神戸市の福住小学校でサッカー…

地方に生きる☆

斎藤幸平の「ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた」で小松理虔を知った。斎藤幸平は先日放送された「知恵泉」でも小松理虔の「共事者」という言葉を紹介していた。小松には「新復興論」という著作もあるけれど、私が興味のあるのは、戦災…

新世紀のコミュニズムへ

久しく大澤真幸を読んでいなかった。この間、けっこう多くの本が出版されていた。順次読んでいこうと思う。その最初として、まずは一昨年4月に発行された本書から。ほぼ2年前、ということはまだコロナ禍真っ盛りの頃だ。そしてウクライナ戦争も始まっていな…

カズオ・イシグロを読む

カズオ・イシグロの文学的批評を初めて読んだ。本書では、まだカズオ・イシグロを読んだことのない読者も想定してか、イシグロの各作品ごとに中心的なテーマを取り上げ、一つひとつ批評していく第1部の「作品編」。そして第2部では、各作品に共通する「モチ…

マルクス

斎藤幸平の「人新世の『資本論』」以降、マルクスがちょっとしたブームになっている。白井聡もそれに追随したということかもしれないが、白井聡らしいマルクス論になっているかもしれない。本書を先に読んだら、専門用語が難しく、あまり理解できなかったか…