とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

競争と公平感

 「競争と公平感」というタイトル。副題には「市場経済の本当のメリット」と付けられていたことから、市場経済のメリットとそれを維持するための仕組みについて書かれた本だと思っていたが、もちろんそれが筆者の意識の中心であり、そのことに関して中心的に取り上げた部分もあるのだが、経済学や経済システム全般について最新の話題を網羅的に紹介するといった感じが強い。
 「市場経済と国の分配施策に対する国民意識」「競争に対する男女差」「脳の発達と経済格差」「生育環境と性格と経済状況」「宗教と経済成長」・・・。行動経済学やニューロエコノミクスなど最新の経済学理論の一端がさまざまに紹介されており、どこかの雑誌で連載したコラム集かと思ったが、そうでもないらしい。
 非正規雇用の問題や長時間労働、最低賃金規制、移民政策等の経済に直結する話題についても、「第3章 働きやすさを考える」でようやく取り上げられるが、表層的な感じ。経済学をめざす学生や初学者向けの導入本として書かれたのだろう。正直、期待とは大きくはずれた印象だが、時間つぶしに読むにはいいのかもしれない。

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

●市場競争のデメリットは、厳しい競争にさらされることのつらさと格差の発生である。メリットは豊かさである。・・・日本以外の多くの国では、市場経済のメリットとデメリットを人々はよく理解していて、メリットのほうが大きいと判断している。これに対し、日本では資本主義の国であるにもかかわらず、市場競争に対する拒否反応が強いのである。(P69)
●お金には流動性という魅力が備わっている・・・こうしたお金への選好の特殊性が、消費せずお金を貯めすぎるという人々の行動を起こしてしまう。・・・お金をもちたがるとお金の値段が上がっていく。お金の値段が上がるということは、お金の価値が上がることだからモノの値段が下がるということだ。つまりデフレの発生だ。デフレが発生すると人々は、買い物をするのを将来に先延ばしにしようとする。なぜなら、そのほうが安くモノが買えるからだ。そうなると、ますますモノが売れなくなってしまう。モノが売れなくなるから、失業が発生する。こうした循環が続いてしまって、長期の不況が発生するというのが小野理論の仕組みだ。(P148)
●役に立たないものやサービスを作り出しても意味がない・・・生産能力を高めるような公共投資も意味がない。・・・小野理論によれば、満足度を高める公共投資や公的サービスを増やすことで失業者を減らすことが一番の不況対策だ。・・・具体的には、生産性を高めないが生活環境を改善するような投資や公的サービスである。その条件を満たすものは、環境投資、介護サービス、育児サービス、教育、芸術などである。(P149)
●「非正規切り」の問題は、不況という負の経済ショックを誰が負担するのかという問題なのだ。日本全体のパイが急激に縮小したショックを、非正規労働者が集中的に負担しているのが、いま起きていることである。・・・90年代の不況を就職氷河期の若者にシワ寄せし、今回の不況で彼らにトドメを刺すのが、日本の不況対策だとすれば、あまりに情けないことである。この事態を放置すれば、貧困の固定化を通じ、将来多大な社会的コストを支払わなければならなくなるのは明らかだ。・・・解決のためには、足もとだけを見た対症療法ではなく、長期的な波及メカニズムまで考慮した施策が必要である。(P167)