とんま天狗は雲の上

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宇宙は何でできているのか

 一昨年の小林さん、益川さんのノーベル賞受賞は、ふたりの人懐っこい人柄もあって、多くの人が彼らの研究に興味を持ち、またやさしく説明するテレビ番組なども放送された。説明している内容はわからないではないが、それが物理学全体の中でどういう意味を持つのか、実感としては理解できない中でどう捉えたらいいのか、戸惑うところも多かったのが現実だった。
 本書は東京大学数物連携宇宙研究機構長の村山斉氏が朝日カルチャーセンターで行った講演を元に、現代物理学と宇宙理論の最先端の状況について、わかりやすく解説したものである。
 現代物理学については、アインシュタイン相対性理論から量子力学など、その奇妙な世界を解説する入門書をそのときどき興味を持ってフォローしてきたが、またこの10年で大きな発見があり、さらに「わからないこと」がわかり、日々前進しているという。それが暗黒物質であり、暗黒エネルギーであり、反物質であり、超ひも理論であり・・・。
 宇宙は何からできているか。宇宙はどんな基本法則に支配されているのか。この二つの謎を探っていくと、素粒子標準模型にたどり着く。物質を構成する原子を構成する電子、アップクォークダウンクォーク、そして電子ニュートリノ。これら4つの第1世代の素粒子に、ミューオン、ミューニュートリノ、チャーム、ストレンジの第2世代素粒子。さらに、トップ、ボトム、タウニュートリノ、タウオンの第3世代素粒子。これらのフェルミオンの間にあって「力」を伝えるフォソン、グルーオン、Zボソン、Wボソンの4つのボソン。
 光が粒子であり同時に波である、ということ自体が既に常識を越えているが、本書で出てくるバーチャル光子や時間を逆行する反粒子などはもうほとんど理解不能。しかし、「『そういうものか』とファジーに受け止めたほうがいいでしょう。私もあまり真面目に考えないことにしています。」と話してもらうと、こうした理論をいかに受け入れるべきかがわかってくる。大事なのは実感ではなく、説明できるという事実なのだと。
 これからも「わけのわからない」事実がたくさん発見されるのだろう。本書を読んで、それらを受け入れる心の準備、楽しめる心の余裕を持つことができた。「わからないこと」がわかること。それこそがまさに科学の心なのだった。

宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

●つい最近になって、宇宙の膨張が「加速」していることがわかりました。これも、私たちの宇宙観を根底から変えてしまった事実の1つです。そうだとすると、「投げたボール」を透明人間のような何者かが後ろから押しているとしか考えられません。その「何者か」が、暗黒エネルギーだと考えられています。・・・そんな得体の知れないものが、宇宙の7割以上を占めているのです。(P56)
●20世紀の終わりから21世紀の初めにかけて、これだけ「わからないことがある」とわかったこと自体が、現代物理学の成果であり、大きな前進なのです。(P58)
●このあたりから、次第に話がファジーになってきます。でも、量子力学にはそもそもファジーな面があるので、そういうものだと思って聞いてください。/荷電粒子は光子をつくるにはエネルギーが必要です。それは、どこかから借りなければ手に入りません。どこから調達するかというと、これはもう、「そのへんから」としか言いようがありません。・・・これは明らかなルール違反です。・・・でも・・・それでうまく説明がつくのだったら、ルールを破ってもよいことにしよう、と考えるわけです。(P136)
●たとえば、陽子と陽電子がぶつかって消え、そのバーチャル光子がミューオンの粒子と反粒子に変わるまでを表わしたのが、ここに掲げたファインマン・ダイアグラムです。ご覧になればわかるとおり、この図では反粒子が時間を逆行することになっています。これはファインマン・ルールの1つなのですが、あまり真面目に考えると頭が混乱して気持ち悪くなるので(笑)、「そういうものか」とファジーに受け止めたほうがいいでしょう。私もあまり真面目に考えないことにしています。(P139)
●宇宙が何からできていて、どんな法則に支配されているのか。繰り返しになりますが、それを説明するのが「標準模型」です。これまで見てきたとおり、多くの研究者の才能と努力を結集することで、宇宙の成り立ちはかなりのところまでわかってきました。電子やクォークなどの物質粒子が、光子やグルーオンウィークボソンが伝える「力」に支配されて、この宇宙を形づくっているのです。(P194)