とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

帝国以降

アメリカ合衆国は現在、世界にとって問題となりつつある。(P19)

 象徴的な書き出しで始まる。続きを引用する。

●これまでわれわれはとかくアメリカ合衆国が問題の解答だと考えるのに慣れて来た。アメリカ合衆国は半世紀もの間、政治的自由と経済的秩序の保証人であったのが、ここに来て不安定と紛争を、それが可能な場所では必ず維持しようとし、国際的秩序崩壊の要因としての様相をますます強めるようになっている。そして副次的重要性しか持たぬいくつかの国が、攻め滅ぼすべき「悪の枢軸」をなすのだと、全世界が認めることを強要している。(P19)

 アメリカはソ連崩壊以降、世界の帝国を止め、かつてのような一国民国家をめざすべきだったのに、惰性的な政権運営を続けた結果、帝国になりきれない帝国として、世界に問題を撒き散らしている。膨大な貿易赤字で世界に寄生する存在となり、経済面・軍事面で帝国の資質を失った。また、平等と正義というイデオロギー的普遍主義も今や後退し、自国はおろか他国にまで不平等な格差社会を拡散する始末である。それでもなお、帝国の振りをするために、弱小国を見つけては「悪の枢軸」と決めつけ、世界の警察官の振りを演じては迷惑をかけている。
 本書が発行されたのは9.11事件の翌年の2002年。日本では翌2003年に発行された。この時点で、アメリカの本質をここまで暴いているのはさすがと言うべきである。その後のアメリカは、経済的な退潮を虚偽の金融工学で隠して一時的な繁栄を謳歌したが、それも2008年に崩壊し、まさに全世界に迷惑を撒き散らした。
 本書では、日本はヨーロッパと並んで、アメリカの横暴を懲らしめ、多極的な正しい世界を主導することができる存在として描かれている。現実の日本は、民主党政権以降、よりいっそうアメリカの属国化が進んでいるように思われる。日本とヨーロッパとロシアが世界の三極として期待されているが、最近の動向は中国がさらに存在感を増し、日本はロシアからも北方領土問題でそっぽを向かれ、中国からは尖閣諸島問題で脅され、ますます孤立するアメリカと運命を共にしようとしているように見える。
 アメリカが世界の帝国として君臨する未来も描けないことはないが、その場合は、国内の格差はいっそう拡大し、ほんの上流層だけが、いや結果的には日本全体はアメリカの下層国に落ち込まされることになる。
 本書の主張「予言」をそのまま信じればそういうことになる。もちろん本書が必ず正しいかどうか、本書のとおり世界が動くのかどうかはわからない。が、例え本書そのままにはならないにしろ(例えば本書では中国を非常に小さくしか捉えていないが、これを変更する必要はないのだろうか)、日本の行く末は日本自体で決定していかなくてはいけないし、その過程と結果に国民として責任を持つ必要がある。現在の日本外交の状況には、強い危惧を抱かざるを得ない。

帝国以後 〔アメリカ・システムの崩壊〕

帝国以後 〔アメリカ・システムの崩壊〕

●歴史は歩みを止めることがない。民主主義が全世界に広まったということで、最も古くからの民主主義国−アメリカ合衆国、イギリス、フランス−も変化し続けているということを忘れてはならない。あらゆるものが、現在これらの国々が寡頭制に変貌しつつあるということを示している。・・・民主主義は現在、それが弱体であったところで前進しつつあり、それが強力であったところで後退しつつあるのだ。(P39)
●貿易の自由化は、経済原則通りに、世界規模での不平等の拡大を引き起こした。貿易の自由化というものは、全体としての世界の特徴に他ならない所得格差を一国規模で各国に導入する傾向があるのだ。(P105)
●二つの型の「帝国」の資質がアメリカには特に欠けている。その一つは、全世界の現在の搾取水準を維持するには、その軍事的・経済的強制力は不十分である、ということ、二つ目は、そのイデオロギー上の普遍主義は衰退しつつあり、平和と繁栄を保証すると同時に搾取するため、人々と諸国民を平等主義的に扱うことができなくなっている、という点である。(P117)
●(ソ連崩壊により)その軍事的役割が必要なものと見えるのを止めたまさにその時に、アメリカ合衆国は、不平等革命、寡頭制への転換の全世界的旗頭となったのだ。・・・今後アメリカが提案するのは、もはや自由主義的民主制の保護ではない。すでに最も豊かで力のある者に、さらに多くの金と権力を提案するのである。(P240)
●現今の本物の強国を統制すること−工業の領域では日本とヨーロッパを押さえ、核武装の領域ではロシアを粉砕すること−ができないので、アメリカは、これ見よがしに帝国の振りをするために、非強国の分野で適用する軍事的・外向的行動を選ばざるを得なかった。すなわち「悪の枢軸」とアラブ圏という二つの圏域である。(P267)