とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

日本の文脈

 内田樹中沢新一の対談集。プロローグも入れると全部で8回の対談の記録が掲載されている。平川克美釈徹宗が進行役を務めたものもあるが、基本的に二人が話していることに代わりはない。時期的には2009年4月から2011年5月にかけてで、第7章の「世界は神話的に構成されている」以外は東日本大震災以前の対談だ。
 二人と平川克美の鼎談集である「大津波と原発」では原発に対する対応を一神教との関係で論じているが、第7章ではその発展形としての一般論が語られている。
 その他の各章を通じて共通のテーマは「贈与」。民主主義は「被贈与感」があってこそ機能すると言う主張は興味深い。現在の自己利益追求型の民主主義は社会格差を拡大して、倫理的な社会崩壊を導く。その根底にあるのが、遅れてきた者としての「被贈与感」。レヴィナスの「始原の遅れ」が語られる。
 その他にも、「霊性」や「中空論」「プリコラージュ」「物語の力」など、日頃、内田樹がブログで書いていることなどが中沢新一に触発されて、具体的な事例を帯びて現われてくる。面白く、触発される対談集である。 

日本の文脈

日本の文脈

●社会制度のある部分は、歴史的状況が変わってもあまり変わらない。まったく変わらないものもある。たとえば貨幣、親族、言語といった社会制度の根本をなすものは惰性が強く効いているから、歴史的な条件の影響を受けない。(P34)
●真ん中は空洞で、ときどき外からやってくるトリックスターがいて、この二つが結びあって日本のアイデンティティがつくられている。これが近代に至るまで同じ構造で持続してきているわけですよね。(P142)
●身銭を切ってわれわれにこのシステムを寄贈してくれた先人がいるんだという被贈与の感覚がある時は、民主主義は健全に機能する。でも、その「感謝の気持ち」が時間とともに希薄化していって、デモクラシーというシステムがまるで自然物のようにずっとあったものだと思い出すと、うまく機能しなくなる。・・・生身の肉体が分泌する情念とか名誉心とか理想とか、そういう生き生きとしたものが民主主義のシステムを下支えしている。(P221)