とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

帝国解体

 アジア政治研究の専門家、チャルマーズ・ジョンソン氏の遺作。もっとも私は筆者を本書で初めて知った。巻末にシーラ夫人による回想が添えられている。彼には、毛沢東革命を研究した「中国革命の源流」や日本の経済政策を研究した「通産省と日本の奇跡」などの著作もあるが、2000年代に入って以降、一貫してアメリカの帝国主義的政治に批判的立場で「ブローバック」「アメリカ帝国への報復」「メネシス」等の著書を出版してきた。
 本書はこれらの著作を書きあげたあと、体調を崩し、長文執筆が困難になった後に、ウェブサイトに投稿された小論文等を集めて出版されたものである。そこには、無能で役立たずで失敗ばかりをしてきたCIAに対する批判、ブッシュJrを中心に進められた軍産複合体への批判、世界に700以上の基地を配置して現地に反米意識を植え付け、かつアメリカ財政の悪化の一因となっている帝国主義への批判などが綴られている。
 これらのことは日本に住む私達には周知のことではあっても、多くのアメリカ人に知らない現実であるようだ。実際、アメリカ政府はオバマ政権になっても一向に軍事拡大路線を改める傾向が見られない。もっとも読みながら、アメリカにも軍産複合体ネオコンに対する批判があることを証明するアリバイ本のようにも感じられた。ジョンソン氏がいくら主張しようと多数派にはなりえなかったという事実。
 軍産複合体の存在はアメリカの凋落を速めている。日本人からすればそうやってアメリカが凋落崩壊すればいいという思いが湧きあがらないでもないが、破滅的な崩壊は世界的な影響も大きいことを覚悟すべきだろう。既にOWS運動など新たな萌芽が見え始めてはいるが、一刻も早くアメリカも目覚めてほしい。そのことが結局、日本がアメリカの桎梏から解き放たれ、再生に向かう条件の一つであると思われる。

帝国解体――アメリカ最後の選択

帝国解体――アメリカ最後の選択

帝国主義政府の形態は、そこで統治される者の同意を求めもしなければ必要ともしない。それは純粋に専制政治の形態である。アメリカが国内民主主義と外国での専制的支配とを組み合わせようとするのは、どうしようもないほど矛盾しているし、欺瞞でもある。一国は民主主義でもありうるし、または帝国主義でもありうる。しかし同時に両方でいることはあり得ないのだ。(P41)
●CIAは設立当初から、何をすべきかについて二つの矛盾する概念を抱えて動き、どの大統領もこの状況を修正も解決もできずにきた。諜報活動と情報分析は、ありのままの世界を知ろうとする。それに対して、秘密工作は世界を理解することなどにはおかまいなく、ただ変えようとする。(P84)
●アメリカ人のほとんどは、アメリカが軍事力を通して世界に権勢を振るっているということを知らないか、あるいは認めたがらない。そこが、他の多くの国の人々と違うところだ。実際、政府が秘密にしているため、アメリカ市民の大半は米軍駐屯部隊が地球を取り巻いているという事実を知らないのだ。(P122)
●ベイカーはこう結論する。「戦争が起こって軍事支出が増えると、経済が活性化すると一般に考えられている。しかし実際には、ほとんどの経済モデルが示すように、資力が消費や投資などの生産的な分野から軍需産業に流れ、軍事支出は究極的には経済成長を鈍らせ、雇用を減らすことになる」と。これらは軍事ケインズ主義の有害な影響の、ほんの一部だ。(P163)
●年老いたジョン・ウォーナー上院議員は・・・「軍関係者に対する敬意から」この予算案に賛成票を投じるべきだと同僚共和党員に懇願したものだ。ウォーナー議員は、いまの兵士たちは実際には志願兵であって召集兵ではなく、軍隊入隊は単なるキャリア選択であって、国が彼らに犠牲を求めたわけではないことに、気がついていないようだ。(P170)