とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

さよならドビュッシー前奏曲

 「さよならドビュッシー」で大火傷を負った香月遥(片桐ルシア)の自宅火災で亡くなった香月家の祖父、香月玄太郎の要介護探偵としての活躍を描くスピンオフ作品。
 玄太郎の不動産会社絡みで起きた密室殺人事件を解決する「要介護探偵の冒険」。玄太郎が障害を負うこととなった脳梗塞と介護士みち子との出会いを紹介するとともに、リハビリ施設での事件を解決する「要介護探偵の生還」。玄太郎が近所で発生する老人襲撃事件に挑む「要介護探偵の快走」。銀行強盗事件に遭遇し、隠れた首謀者を明らかにする「要介護探偵と四つの署名」。そして、岬洋介との出会いと岬の華麗な事件解決を描く「要介護探偵最後の挨拶」の5編を収録する。
 「要介護探偵最後の挨拶」のラストシーンでは、岬洋介と別れて自宅に帰る玄太郎の姿が描かれ、要介護探偵としての役割を岬洋介に譲り、小説世界からも姿を消すことが示されている。また、「おやすみラフマニコフ」にも顔を出す音大生・金丸裕佑も登場するなど、岬洋介シリーズに連なる事柄がさまざまに描かれている点は楽しい。
 だが、それらを除けば、ミステリーの種としてはやや常識から離れ、無理やり感もあるし、社会批評も凡庸。私が時々海堂尊を読むのはストレス解消という面がある。中山七里もこれまではそれなりに楽しんできたが、本書を読みつつ、これはちょっと時間の無駄かなという気がしてきた。
 中山七里には「さよならドビュッシー」などの明るい音楽青春ミステリーと猟奇的なサイコミステリーの二つの作品があると言う。時間潰しとはいえ、本を読んで嫌な気分にはなりたくない。とりあえず次は「いつまでもショパン」を予約しているけど、それ以外の作品にはしばらく手を伸ばさない方がよさそうだ。これからも中山七里は作品を選んで読もうと思った。

●ブランドを偽った高級料亭と、そのブランドに盲いてしまった食客たち―。その根本にあるのは卑小な虚栄心だ。高級な装飾品、高級な食事を希求するのは、そうしたものを愉しむ時、自分はそれを愉しむ人間に値するのだと優越感に浸ることができるからだ。(P81)