とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

2013年、私の読んだ本ベスト10

 昨年も大晦日に投稿した「私の読んだ本ベスト10」。今年読んだ本は全部で91冊。昨年は72冊だから、かなり増えた。もっとも別のブログで紹介している都市・建築関係の本は14冊しか読んでいない。昨年は20冊読んでいるから、合計では昨年の92冊から105冊に増えている。それだけお気楽な本が増えたのか、それとも毎日が暇で本を読んで過ごしていたか。
 でも冊数が多い割りに記憶に残っている本は少ない。と思ってざっと選定したら20冊。あれ? 逆に記憶に残る本が多すぎたのだろうか。何はともあれ、今年も私が気に入った10冊を選定してみました。ご笑覧ください。

●一般書籍・雑誌の部

【第1位】誰も戦争を教えてくれなかった (古市憲寿 講談社
 今年は古市憲寿をたくさん読んだ。TVでも見た。開沼博「フクシマの正義」で対談しているのを読み、興味を持ってまずは「絶望の国の幸せな若者たち」を読んだ。そして本書が一番面白かった。何より脚注が面白い。本文で読ませて、脚注でも読ませる。倍音的お得な本だ。
 これからの戦争は人が死なないバーチャルなものになっていくかもしれないと想像する現代若者の戦争観には目を開かれる思いがした。國分功一郎との対談本「社会の抜け道」も面白いが、これは来年、國分功一郎を読んで、是非ベスト10の一冊に挙げたい。

【第2位】資本主義という謎 (水野和夫・大澤真幸 NHK出版新書)
 今年初めて知った著者は多くいるが、中でも水野和夫を知った喜びは大きい。経済史を専門とする経済学者、ということなんだろうけど、経歴的には長く証券会社に勤務していた。「長い十六世紀」、「蒐集のためのシステム」、「利子率革命」など、長い視野で経済史を見ることで現在が経済学的にも転換点だということがわかる。新しい資本主義はどういうものかを各界の有識者が語る「新・資本主義宣言」も面白い。

【第3位】想像ラジオ (いとうせいこう 河出書房新社
 今年の小説界を席巻した震災小説といえばまずはこれ「想像ラジオ」。個人的にも池澤夏樹の「双頭の船」と甲乙つけ難く、どちらをベスト10に挙げようかと迷ったけれど、木のてっぺんに引っかかったDJ一辺倒で最後まで押していく点が、救いの船を描く「双頭の船」よりも直裁的かなと感じた。
 いとうせいこうはその後、「ノーライフキング」を読み、また年末には新刊「存在しない小説」も刊行された。次は新刊を読んでみたい。

【第4位】サッカーデイズ (杉江由次 白水社
 今年はサッカー関連本で好著が目立った。中でも本書は、娘(と息子)のサッカーチームのコーチとなって一緒に泣き笑い成長していく家族を描き、微笑ましくも思わず応援したくなるノンフィクション作品だ。こうした本が上梓されるというのは、日本にサッカーがいかに根付いてきたかを示しているようでうれしい。白水社発行という点も泣かせる。

【第5位】1945年のクリスマス (ベアテ・シロタ・ゴードン 柏書房)
 今年は昨年末の安部政権発足以来、参院選での自民党の圧勝に始まり、特定秘密保護法の成立、日本版NSCの設立、武器輸出禁止三原則の破棄、安部総理による靖国神社参拝と日本の右傾化が一気に進んだ年だった。一時、憲法改正を声高に唱えた時期にブログ「世に倦む日々」で取り上げていたのが本書だった。
 日本憲法執筆者の一人、ベアテ・シロタ・ゴードンのことを私は本書を読むまで全く知らなかった。残念ながらベアテ・ゴードンは昨年末に亡くなっている。こうした親日派により制定された日本憲法を誇らしく思う。邪悪な日本人により作られるよりもよっぽどか日本の平和と幸福に貢献してきたと思っている。

【第6位】日本サッカーに捧げた両足 (木之本興三 ヨシモトブックス
 日本のJリーグ木之本興三氏があってこそ、今の現状がある。しかも木之本氏は難病の身でJリーグの激務をこなしてきた。両足をなくし、川渕会長に事務局を追われ、それでもなお日本サッカー界を思う日々。本書で明らかにされた多くの事実に驚愕し、涙を流した。Jリーグは2015年から2シーズン制に移行するという。木之本氏はこのことをどう考えるのか。
 本書がヨシモトブックスから発行されている点も興味を惹く。

【第7位】人口減少という希望 (広井良典 朝日選書)
 広井良典の本は出版されれば必ず読んでいる。筆者自身は本書を「グローバル定常型社会」「コミュニティを問いなおす」「創造的福祉社会」の三部作を踏まえたまとめ本と位置付けているようだが、三部作に加え、最近の思索も加えられ、ますます広井ワールドは広がっている。
 現在の強欲資本主義やグローバリゼーションの先を見据え、新しい定常型社会を社会学の視点で描いていく。経済学者・水野和夫氏に通じる未来への希望を語る本である。

【第8位】戦後史の正体 (孫崎享 創元社
 昨年話題になった本である。長い予約を待ってようやく今年の1月に本書を手に取った。話題になるだけのことはある。日本の歴代の政治家を「自主派」と「対米追随派」(と「一部抵抗派」)に分けて、それぞれがどう振舞ったかを書いていく。陰謀論の烙印を捺される嫌いがあるが、本書の分析は的確だ。
 年末の安部総理の靖国参拝で対米関係もまた新しい局面に入ったようだ。今後の安部政権の行方に目を光らせておく必要がある。孫崎氏の言動も要注視だ。

【第9位】輝天炎上 (海堂尊 角川書店
 今年も海堂尊の小説を何冊も読んだ。一時、中山七里に浮気をした時期もあったが、やっぱり海堂尊の方が数段面白い。中でも「輝天炎上」は碧翠院桜宮病院のその後を舞台に、さらに大きな物語が展開する。「スリジエセンター1991」とどちらを取り上げようかと迷ったが、華麗さ・妖艶さで本書をベスト10に挙げた。でも「ナニワ・モンスター」も含めて面白いんだよね。1月には文庫本が発行される「ケルベロスの肖像」を購入予約した。今年も海堂尊には大いに楽しませてもらえそうだ。

【第10位】サッカー批評(65) (双葉社スーパームック)
 創刊以来読み続けている「サッカー批評」だが、一昨年の53号から隔月刊になって内容的にやや薄めになったと感じていた。久し振りに「サッカー批評」誌らしい内容にナットク。もっとも特集の「2ステージ制に未来はあるのか?」は誌面内容よりも改革内容のほうが問題。本当に大丈夫か、大いに心配になる。サッカーマガジンが月刊化して全く別の雑誌になった。いまや日本サッカー界を的確に批評し続けるのは本誌だけになってしまった観がある。健闘を期待したい。

 以上、10冊です。
 他に小説では、「掏模」中村文則 河出書房新社)、「東京プリズン」赤坂真理 河出書房新社)、「尼僧とキューピッドの弓」多和田葉子 講談社)が興味を惹いた。中村文則は2014年に読んでいきたい作家。赤坂真理の新作はいつ出るのだろう。多和田葉子はとりあえず年末に出た岩波新書の新刊「言葉と歩く日記」を購入済み。来年も多くの小説を楽しみたい。
 また、ノンフィクション・社会評論等では、「(株)貧困大国アメリカ」堤未果 岩波新書)、「漂白される社会」開沼博 ダイヤモンド社)、
「『アラブの春』の正体」重信メイ 角川oneテーマ21)が目を惹いた。来年こそ安らかで心穏やかに過ごせる日本になってほしいと願う。

●都市・建築関係書の部

 都市・建築関係では以下の5冊。しかし年々専門書を読まなくなっていくな。これは、一つには私自身の知識が増え、中途半端な本には興味が沸かなくなったこと。もう一つは根気がなくなったことが原因。寄る年波には勝てません。無理せず、興味の沸くまま、読み進めたいと思う。
里山資本主義(藻谷浩介・NHK広島取材班 角川oneテーマ21
まちなか戸建(森本信明・前田享宏 学芸出版社)
あの日からの建築伊東豊雄 集英社新書
居場所としての住まい小林秀樹 新曜社
あなたならどうする孤立死(中下大樹 三省堂