とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

サッカー批評(68)

 いよいよW杯が近付いてきた。TVのサッカー関連番組もW杯特集が目白押しだ。当然、サッカー批評もW杯特集、なんだけど、なぜかトップ記事は「サッカー界を蝕む八百長の闇―ワールドカップも日本代表も例外でない―」。もちろんその後は西部謙司の戦術論、コートジボワール代表監督や原博実専務理事兼技術委員長へのインタビューなども載っている。
 だがそれ以上に第二特集「差別問題を考える」に力が入っている。浦和レッズの差別横断幕問題を多方面から取材する記事たちだ。本書を読んでまず、差別横断幕事件が一人のサポーターの指摘から始まったことを知った。そして槙野のツイッターで一気に広まったこと。その意味しているのは、レッズサポーターによるレッズ所属選手、李忠成への差別行為だということ。これらのことが一般のマスメディアではほとんど取り上げられていない。無観客試合の空しさと経済的損失ばかりが報道され、ヘイトスピーチ嫌韓・嫌中の酷さがほとんど指摘されていない。それはまさに日本メディアの劣化であり、人権意識に乏しい現政権への配慮があるのかもしれない。
 他にも、今号は質の高い記事が多い。村井満Jリーグチェアマンへのインタビュー。サッカー後進国ポンペイに代表チームを作った英国人監督、ポール・ワトソンを取り上げた記事。佐山一郎の「木之本興三」論。「サッカーニュースの深層」では中国や韓国で日本のJリーグサポーターがリスペクトされている様子を紹介する。「僕らはへなちょこフーリガン」はブラジルの現状を取り上げる。会場整備の問題だけでなく、公金横領が蔓延し国民批判を引き起こしているブラジル社会の現状や国民感情を話題にしている。そして東本貢司の「Football/ORIGINAL SOUNDTRACK」ではジョーイ・バートンを取り上げる。おおっ、現役フットボーラー。悪童にして知的。そうだ、一昨年のマンC対QPR戦を思い出した。
 全体的に近年にない興味深い内容になっている。

●W杯でいい成績をあげるためには、この時期の親善試合に勝った、負けたで一喜一憂する必要はまったくないし、そのように考えているとザッケローニ監督にも伝えました。彼も試合後に「今日はどう思ったか」とよく聞いてくるので、私も正直に答えます。機会あるごとに意見交換する、ずっとそういう仲にありますよ。(P044)
●{JAPANESE ONLY」の横断幕が出た際、これを明らかな差別表現であると問題視し、ツイッターで中継したレッズサポーターがいる。海野隆太。ある大手金融会社で広報関係の仕事に携わっている人物である。海野は問題となった横断幕を観戦に訪れて発見した段階から、事態の重要性を理解し発信していた。海野が指摘しなければ、おそらくこの問題はクラブ側に注視されることもなく解決に向けての舵取りもなされなかったであろう。その意味では海野はレッズの歴史に残る大きな自浄作用の役割を果たしたと言えよう。(P060)
●サッカー界からアンチレイシズムの動きが一般社会に広がれば、地域社会におけるサッカークラブの存在理由はますます高まります。今は「JAPANESE ONLY」どころではないもっととんでもなく醜悪な排外デモが行動で行政の許可もらって行なわれている現実も見ないといけないと思うのです。頼もしいことにそういう排外デモやヘイトスピーチの現場に浦和サポが数多くカウンター活動にやって来ている。「URAWA AGAINST RACISM」のマフラーを多く見ます。(P064)
●魚は密室の中に置いておくと、すぐ腐ってしまうんだけど、天日干しにして皆の目の前に曝すことによって日持ちがよくなる。情報もまったく同じで、「チェアマンと一部の幹部だけに話にしておこう」ということになると、その情報はどんどん腐ってしまう。大事な情報であればあるほど、天日干しのようにオープンにすることで、フェアネスを作っていくということですね。(P081)
●韓国や中国は「反日」ムード一色なのだろうと警戒しながらアウェイに出向くものの、実態は全く違うことのほうが圧倒的に多い。・・・「浦和レッズのことはリスペクトしています。間違いなくアジア最強のサポーターだと思う」今年ACLで来日した広州恒大のサポーターグループのコールリーダーはこう断言した。(P100)