とんま天狗は雲の上

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グローバリズムが世界を滅ぼす

中野剛志はTPP反対論者、藤井聡公共事業推進論者という認識で、どうしてこの二人が一緒になってという点も疑問だったが、それ以上にエマニュエル・トッドの名前があったことに強く興味を惹かれた。読んでみれば、京都大学主催で昨年12月に開催されたシンポジウムを中心に、その後開催された対談等をまとめたもの。しかし、藤井聡反グローバリズム論者だったとは知らなかった。考えてみれば、公共事業必要論はイコール「大きな政府」であり、産業保護論に通じるわけだが、もともと土木学科出身の藤井氏がこうした経済政策に関する議論にこれほどまでに積極的に参画しているとは思わなかった。藤井氏に対する認識を改めた。
 とは言っても、本書の中で藤井氏が特段、目新しいことを述べているわけではない。本書の中で注目されるのは、やはり エマニュエル・トッドであり、ハジュン・チャンである。中でもハジュン・チャンは、韓国出身の経済学者として、韓国の経済政策の失敗を題材に、グローバリズム資本主義を痛烈に、かつ検証的に批判する。「グローバリズムは成長を鈍化させる」というのは重要な指摘だ。
 また、エマニュエル・トッド氏は、これまで「帝国以降」「文明の接近」の2冊を読んだ。識字率等を用いた統計的な分析が面白く記憶に残っているが、中野氏らほど強烈なグローバリズム批判をしていた記憶がなかったので、今回、この本を読んで正直驚いた。とは言っても、あくまで断定的な物言いを避けて、EUに対しては厳しく批判をしつつ、「『好転するアメリカ』という仮説を排除してはならない」という言い方をしている。トッド氏の言説には好感を持った。と同時に、EUは新自由主義による悪しき戦場になっているという指摘は興味を惹く。
 対談集であり、一方的な議論に留まっている気がする。日銀のサプライズ緩和や消費税増税議論など、最近の経済はさらに急激に変化しつつある。グローバリズムの動向に、引き続き眼が離せない。

グローバリズムが世界を滅ぼす (文春新書)

グローバリズムが世界を滅ぼす (文春新書)

●「グローバル資本主義によって経済は成長する」と信じられてきましたが、実際のデータを客観的に眺めてみれば、真実はまったく逆であって、「グローバリズムは成長を鈍化させる」のです。・・・ひとつには、規制なき自由貿易を推進することで、経済が過度に複雑になって不安定になったことが考えられます。・・・不安定性がコストになってしまった。・・・短期的な数字を追うために、設備投資、研修、リサーチといったことが疎かになる。・・・その結果、技術開発が進まず、所得も増えず、成長が鈍化してしまうことになるのです。(P22)
●今のグローバル経済は、国による規制を敵視していますが、実は、アメリカにしても日本にしても「国による産業保護」という規制が成長を生んだのです。・・・残念ながら、南アフリカ、ブラジル、コロンビアといった今の途上国ではそのような保護的な産業政策を取れなくなっている。まだ十分に成長し切れていない中で、WTO、TPPなどによって、規制緩和の圧力がはたらき、グローバル化が強制されているからです。(P24)
●民主主義がうまく機能するためには、その前提として暗黙のうちに価値観が先に共有されていなければならないのです。みんなが意見を持ち寄って一つの価値観を決めるのが民主主義であると思われがちです。しかし、実際には順番が逆なのです。価値観の共有が先にある。ここで大事なのは、その共有する価値観それ自体は民主的に決めることができないということです。それが民主主義の前提であるからです。・・・私が「民主主義は国民国家ごとに行われる」と言うのは、まさにここに理由があります。価値観を共有する集団として、ネーションはちょうど都合がいいのです。(P214)
●ヨーロッパは、グローバリゼーションに対する一つの城壁としての可能性を期待されていました。・・・ところが、・・・今や、期待されたのとはまったく別のものになろうとしてということです。すなわち、自由貿易のために申し分のない条件を整えようとしているのです。そうなれば逆説的に、国家間の対立が起こってしまう。実際、ヨーロッパは国家間の経済的な対立の可能性をいち早く実現してしまったのです。(P216)