とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

2015年、私の読んだ本ベスト10

 今年も終わろうとしている。今年読んだ本の冊数は75冊。昨年は87冊読んでいるから、さらに少なくなった。一方で都市・建築関係の本を15冊読んでいる。こちらは昨年に比べて6冊多いから、これらの専門書を読むのに時間を取られたということかもしれない。しかし年々進行する白内障の影響も大きい。次第に読むのが辛くなってきた。そろそろ手術を真剣に考えなくてはいけないかもしれない。

 毎年、感動を受ける本が少なくなっているような気がする。これも年のせいだろうか。今年はカズオ・イシグロ「忘れられた巨人」が発行されたのが最大の収穫だが、それに続く本がない。村上春樹もいくつか読んだが、少し飽きてきた。内田樹もね。今年はダニー・ラフェリエーニと神里達博を発見したのはよかった。サッカー関連本は低調だったという印象。2016年も新たな発見があるといいのだけれど。

 

  • 一般書籍・雑誌

【第1位】忘れられた巨人 (カズオ・イシグロ 早川書房

 今年は何と言ってもこれ。アーサー王の時代を舞台にしたファンタジーだが、カズオ・イシグロはどんな分野の小説を書かせても十分に面白い作品となる。単なるファンタジーではなく、民族・憎悪・愛・死などの現代社会を覆う問題を浮き彫りにする。それらの問題から社会を守っているのが忘却の力というところも健忘症の私には心強い。

 

【第2位】地球はもう温暖化していない (深井有 平凡社新書

 今年の冬は異様に暖かい。11月にはCOP21もあり、日本では地球温暖化は既成の事実となってしまった感がある。しかし本書では「地球はもう温暖化していない」と主張する。正確には「CO2による温暖化と同程度に太陽活動による寒冷化が心配される」と主張するのだが、日本のメディアはまったく無視をしている。私は深井氏の主張を大いに支持しているのだが・・・。

 

【第3位】逆説の軍事論 (冨澤暉 バジリコ)

 今年の政治的な最大の出来事は安全保障法制の成立だろう。あれほど繰り広げられた反対運動も法制定後はすっかり過去の出来事になってしまった。話題が真っ盛りの頃に本書を読んだが、世界情勢の多極化に伴い、安全保障政策も変化する必要がある。そうした中での現実的な軍事論ということでは本書の主張にも大いに肯ける。

 

【第4位】生きて帰ってきた男 (小熊英二 岩波新書

 小熊英二が執筆した本は他にも何冊か読んだが、あまり期待していなかったにも関わらず、本書が最も面白かった。本来、小熊英二はこうしたオーラルヒストリーにおいて力を発揮するのだろうか。実の父親の反省を淡々と書き連ねる筆力はすばらしい。私の父と同年代なことも感情移入ができた要因の一つでもある。

 

【第5位】琥珀のまたたき (小川洋子 講談社

 今年は又吉直樹の「火花」が芥川賞を受賞し注目を集めた。それ以外ではどんな小説が売れたのだろうか。今年も多和田葉子村上春樹も読んだが、一番面白かったのはこれ。小川洋子の物語力にはいつもながら感服する。次の長編はいつ発表されるのだろうか。

 

【第6位】商店街はいま必要なのか (満薗勇 講談社新書)

 日本の流通がいかに変化してきたかを歴史的にたどる好著。「商店街はいま必要なのか」というタイトルの答えが書かれていたかどうかは定かでない。流通とは生産地と消費地をいかに結ぶかということで、モノを運送することは必要だが、商店や店舗は必ずしも不可欠ではない。商店と街は別物ということか。

 

【第7位】文明探偵の冒険 (神里達博 講談社新書)

 神里達博は今年の発見の一つ。現代は「近代の終わり」、次にやってくるのは「中世のようで中世でない時代」というのは正しいだろうか。その後に読んだ萱野稔人との対談集である「没落する文明」はそれほどでもなかった。神里達博の単著はまだ出会えていない。来年を期待しよう。

 

【第8位】ジェロニモたちの方舟 (今福龍太 岩波書店

 久しぶりに今福龍太を読んだ。アメリカ的覇権から世界を救うのは今福が提唱する「群島‐世界論」か。辺境的視点から世界を見ること、若しくは辺境や弱者に積極的に関わっていくこと。そこから見えてくる世界がある。沸き上がるように重ねられる文章の巧さにも感動。

 

【第9位】帰還の謎 (ダニー・ラフェリエーニ 藤原書店)

 「ジェロニモの方舟」を読んでダニー・ラフェリエーズを知った。ハイチ出身のカナダ人作家。最初に読んだ「吾輩は日本作家である」も面白かったが、本書では33年ぶりにハイチへ帰って経験した出来事を綴る。ハイチでは33年前と変わらず時間が流れている。そのことを知り、もう戻れないことを悟る。「帰還の謎」は筆者の心の中にあった。

 

【第10位】蹴る女 (河崎三行 講談社

 サッカー本も何冊か読んだが、期待していた「サポーターをめぐる冒険」が思ったほど面白くなかった。ハリルホジッチものもまだ結果が出ていないし。それで阪口夢穂を描いた本書が一番面白かったかなと。澤が引退した今、日本女子サッカー界を背負うのは、宮間であり阪口であるはず。そんな期待を込めて本書を第10位に選出した。

 

  • 都市・建築関係

 一方、都市・建築関係では次の5冊を選出。中でも「<小さい交通>が都市を変える」はバイアフリーの視点を変える。高齢者が4割を超える社会になれば健常者の方が少数派になるという指摘は鋭い。また、山下祐介は「地方消滅の罠」「地方創生の正体」の2冊読んだが、金井利之氏との共著である後者を選出。行政学の金井利之氏を知ったことが収穫。「多縁社会」ではシェア居住など多縁社会における多様な住まいの形を紹介する。また、「復興<災害>」では復興自体が及ぼす災害を指摘している。

 

<小さい交通>が都市を変える (大野秀敏他 エヌティティ出版

地方創生の正体 (山下祐介・金井利之 ちくま新書)

多縁社会 (篠原聡子他 東洋経済新報社

復興<災害> (塩崎賢明 岩波新書

2020年マンション大崩壊 (牧野知弘 文春新書)