とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

人間の経済

 宇沢弘文の本と言えば「社会的共通資本」位しか読んでいない。当時の感想文を読むと、批判的な感想しか書かれていなかった。少し意外な感じ。しかし、建築や都市計画に関わっていると、「社会的共通資本」という概念は自らの仕事に意味と勇気を与えるものとして頭にこびりついている。

 宇沢弘文の名前は、平川克美らの本で何度も見てきた。しかし、スティグリッツやデューイ、フリードマンらと実際に交流があったということを知り、改めてすごい人だったんだと実感した。そして本書ではフリードマンらの市場原理主義を徹底的に批判する。しかし現代は、市場原理主義が席巻する世界から抜け出せないでいる。

 宇沢弘文が他界して既に3年が経つ。人間の関わらない経済というのはあり得ないが、人間を幸せにする経済はまだ見えてこない。今般の選挙で若い世代ほど自民党に多く投票しているという分析などを見ると、人間も次第に変わっていくのかもしれないなと思ってしまう。でもやはりなるべく多くの人間が幸せになれる、そんな経済であってほしい。結局、宇沢弘文が言っていることはそれに尽きるような気がする。

 

人間の経済 (新潮新書)

人間の経済 (新潮新書)

 

 

〇「新しいレールム・ノヴァルム」が経済学者に提起したのは、それぞれの国が置かれている歴史的、社会的、文化的、自然的、経済的諸条件をじゅうぶん考慮して、すべての国民が人間的尊厳と市民的自由を守ることができるような制度をどうやってつくればいいのか、という問題でした。(P22)

〇医療や教育、自然環境が大事な社会的共通資本であることはもちろんですが、もう一つ、つけ加えるなら、平和こそが大事な社会的共通資本なのです。・・・ヨハネ・パウロ二世は・・・1981年に来日されて広島と長崎を訪れた際、・・・こういう話をされています。/「平和は人類にとって、いちばん大事な共通の財産である。特に日本の平和憲法は、平和を守る非常に重要な役割を果たす社会的な資産である」(P23)

〇日本の経済社会あるいはアメリカの惨憺たる状況を見て、経済学が社会の病を作っているのではないか、何とかして経済学が人間のための学問であるようにと願い、様々な努力をしてきました。・・・その過程で私は一つ大事なことに気がつきました。/それは、大切なものは決してお金に換えてはいけない、ということです。人間の生涯において大きな悲劇は、大切なものを権力に奪い取られてしまう、あるいは追いつめられてお金に換えなければならなくなることです。(P50)

〇ヴェブレンは近代文明社会における大学の機能を二つの側面から考えました。/一つは「Idle Curiosity(自由な好奇心)」で、人間に本来備わっている好奇心を探求していくことが大学の目的であって、決してお金を儲けたり、世間的に出世して偉くなったりするためにあるのではない、ということです。/そしてもう一つは「Instinct Workmanship(職人気質、生活者としての本能)」で、もともと人間はものづくりに対する本能的な熱意をもっていて、ものをつくるときに強制されたり、それによって儲けようと考えたりしない。(P109)

〇私が1990年のローマ会議で強く主張した考え方は、大気という大事な社会的共通資本を守るために、「競争的」ではなく「協同的」に、皆が公正と思えるようなルールを採用して協力していこうということでした。/大切なことは、それぞれの国がもっている歴史と文化を社会的共通資本として大事に守り、それを子や孫たちの世代に伝えることであり、そのために私たちが力を合わせて協力し、協同して解決していくことです。(P163)

〇金融制度というものは経済的な生活が円滑にいくために存在しているのであって、そこで売り買いをして儲けるためではない、というのがヴェブレンの最も重要な考え方です。また企業は永続的なもので、皆がそこで仕事を持ち生活していくための基盤になっているのだから、儲けばかりをもとめて簡単に売ったり買ったりしてはいけない、ということです。(P183)