とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

日本サッカー「戦記」☆

 「季刊サッカー批評」で連載されてきた「日本サッカー戦記」は今も連載が続いているのだろうか。本書には2017年9月19日発行のissue87に掲載された記事までが掲載されているが、ネットで検索すると、issue88が12月に発行された後、issue89は18年5月発行予定のようだから、かなり厳しくなっているのかもしれない。「サッカー批評」は2014年6月のissue69を最後に、執筆陣・編集陣は「フットボール批評」へ移動した。その中で加部さんは「サッカー批評」への恩義を感じていたのだろうか。

 それでも今回、本書は「フットボール批評」を発行するカンゼンから発行されている。冒頭の「謝辞」を読むと、発行まで紆余曲折があったようだが、こうした1冊の本となったことは本当に喜ばしい。「フットボール批評」発行以降、読むことがなかった新しい「日本サッカー戦記」の中にも興味深い記事は多い(ちなみに下記の引用中、冒頭に◎を付したものは現「サッカー批評」に掲載のもの、●を付したものは、その他の媒体に掲載された記事だ)。

 記事は、「東京五輪・アジア最弱からの躍進」から年代別に並んでいる。最後は2000年代「プラチナ世代はブラジルを怖がらない」は2009年U-17ワールドカップの話だ。その時からまた10年近くの時が流れようとしている。その後日本はワールドカップ南アフリカ大会で躍進し、ブラジル大会で惨敗し、そしてロシア大会を目前に控えている。突然、ハリルホジッチ前監督を解任し、西野朗監督にすげ替えた日本はどんな成績を、どんなパフォーマンスを見せてくれるんだろうか。

 本書では意外にワールドカップでの記事は少ない。フランス大会の記事がある程度で、日韓大会やドイツ大会もほとんど記述されていない。それでもフリューゲルスの消滅やヴェンゲル・サッカーの衝撃など、Jリーグ・日本サッカーにおける重要な出来事はしっかりと抑えている。私はこれを図書館で借りてしまったが、サッカーファンなら一家に一冊、愛蔵してもよかった。文庫本になったら絶対買おうと思う。日本サッカー界にとっても十分に価値のある1冊だ。今年のサッカー本大賞はこれで決まりだね。

 

日本サッカー戦記

日本サッカー戦記

 

 

○もし半世紀以上前に東京五輪が開催されていなければ、まだ日本でサッカーはマイナー競技の1つに埋没していた可能性がある。・・・大ベテランのスポーツライター賀川浩の言葉を借りれば「他の競技と違って、サッカーだけが東京五輪を目的とせず、きっかけにしようと多くの人たちがもがいていた」という。その結果、強化と普及の道筋が劇的に切り拓かれていった。日本サッカーは世界基準という大海へと舵を切り、新しい航海を始めるのだった。(P15)

○「やっぱり釜本さん、野球をしていたら、王さん、長嶋さんクラスでしたね」/江藤が舌を巻いたそうである。/長身で並外れたパワーと良質な筋肉、そしてバランス感覚。剣道の名手だった父と、俊足のランナーだった母から生を受けた釜本は、おそらくどの種目を選んだとしてもトップアスリートの地位が約束されていた。/「今でも一番得意なのは野球やから」/不世出のストライカーは、意外に真顔で話した。逆に当時は、それほどのアスリートがサッカー界に入ってきたことが奇跡だった。(P65)

◎土壇場でソウル五輪を逃し、石井は「これで良くも悪くも日本のサッカーが変わる」と思った。現実に痛恨の想いは、日本サッカーの進化を促した。後年石井は、Jリーグ創設の立役者木之本興三ジョークを言われた。「あの時、ソウル五輪に出場出来ていたら、間違いなくプロ化が遅れていた。そういう意味では功労者ですよ」(P208)

●日韓ワールドカップで韓国代表を率いたフース・ヒディングの采配が理想だという。自ら積極的に動いて勝利を手繰り寄せる。数多くの成功経験に裏打ちされたか監査に憧憬を抱く。・・・人間観察と気配り。それに慎重と大胆がバランス良くミックスして、日本を代表する魅力的な指揮官西野を形作る。・・・自ら描いて選んだ道でなかった。しかし西野もまた監督という職業の持つ麻薬性に浸蝕されつつあるようだ。(P302)

◎「名古屋へ移籍した楢崎が、ずっと同じチームでプレーし続けるのも、前所属チームとして横浜フリューゲルスと記されるからですよ」・・・2014年1月18日、横浜・三ッ沢球戯場では波戸の引退試合が行われ、フリューゲルスタイマリノスの最後のダービーマッチが実現した。/「ボクしかできない企画ですからね」/波戸は誇らしげに携帯のライングループを見せてくれた。ドイツに住むエンゲルスも含めてフリューゲルスの28人は、今でもしっかりと繋がっていた。(P338)

●「監督という仕事はどんどん複雑になっている。選手を掌握するには心理学を学ぶ必要があるし、自分たちがやろうとしていることが正しいと信じさせるためには会話能力も要求される。この仕事は勝っている時はいいんだ。でも負けた時に何が出来るかで価値が決まる。しっかりと状況を把握して、常に何かを試し、変えていかなければいけない」(P376)