とんま天狗は雲の上

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ルポ 雇用なしで生きる

 「21世紀の楕円幻想論」の中で本書が紹介されており、興味を持った。等価交換モデルではない経済システム。それを本書では「もうひとつの経済」と呼ぶ。いや、筆者が感銘を受け、スペインを取材するきっかけとなった本「雇用なしで生きる」の筆者、フリオ・ヒスベールの提案だ。

 ここで紹介されるのは、時間銀行であったり、地域通貨やフードバンク、生活支援の様々な取組など。そしてM15に代表される市民運動金融危機により資本主義の矛盾や問題が目に見えるようになった2010年以降、特にスペインでは貧富の拡大等から市民運動が広がりを見せ、社会的連帯経済の取組が各所で見られるようになった。それらを紹介していく。

 本書の中では、交換することなく、自由に物資を集め、持っていくことができる「トゥルエーケ」や「連帯冷蔵庫」に興味を持った。日本でも「コミュニティ・マーケット くるくるひろば」という取組が行われている。でもこれが広がらないのはやはり理由があるのかな。ただのゴミを持ち込む人がいて、その管理に時間と手間がかかるとか。

 また、地域通貨やフードバンク、ワーカーコレクティブなどの取組は日本でもすでにずいぶん前から行われてきた。それが未だ大きく広がっていかないのは何故だろうか。これまでの貯えもあって何とか回っているから? それとも日本人の特性? 今後、日本でもようやく広がっていくのだろうか?

 こうした考え方、取組は理解するし、賛同もする。だがこれだけではうまく回っていかない。金銭合理性と互助的贈与モデルがうまくバランスすることが必要なのだろう。たぶん。でもどうやって。いつか近いうちに日本でも社会的連帯経済のブームが来るだろうか。その時に乗り遅れないようにはしよう。

 

ルポ 雇用なしで生きる――スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦

ルポ 雇用なしで生きる――スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦

 

 

○「新居に必要なモノは、トゥルエーケ(trueque)で手に入れるつもりよ」。/トゥルエーケとは、物々交換のことだ。15Mの地区議会の多くが、地域の公園や広場を利用して「物々交換市」を実施している。・・・「交換」と言っても、必ずしも二者の間でモノを交換する必要はない。自分が必要なものがあれば、それをもらうことができ、相手に何かを提供する義務はない。誰が誰の持ってきたものを持って帰ってもいいのだ。(P012)

○「もうひとつの経済」とは、雇用も公的補助金も寄付もなくても、「仕事をする」ことさえできれば、ちゃんと生きていくことができる経済世界のことだ。・・・「雇用」と「仕事・労働」は異なる・・・。家事労働は、「雇用」と見なされることはないが、家計においても、国の経済においても重要な役割を担う「仕事・労働」で、雇用されていなくても、働くことは可能だということを示す良い例だ・・・。さまざまな仕事は、その評価の仕方を変えれば、会社や役所などに雇用されていなくても、労働を通じて生活に必要なものを手に入れることはできる(P021)

○「社会的経済」は、主に協同組合やNPO、財団、共済組合が構成している。フランスを中心とするラテン諸国・・・が・・・社会福祉予算が十分賄えなくなった時に・・・「社会的経済」の担い手をバックアップするという方法をとったことで、普及した表現だそうだ。/「連帯経済」という表現は、1990年代にラテンアメリカで生まれた。・・・新自由主義的経済改革・・・から取り残された貧困層が自力で問題を解決しようと創り出してきた経済活動・運動を、「連帯経済」と呼ぶようになった。・・・資本主義経済への依存が次々と矛盾や問題を露呈している今、二つは互いに近づき始め、「社会的連帯経済」という言い方がされるようになってきている(P104)

○・資本主義を離れて生きることを始めよう。/・連帯経済のネットワークを強化して、経済を私たちの手に取り戻そう。・・・資本主義を継続するために危機を脱するのではなく、危機を生み出す資本主義そのものから脱出するのだ。民主的で公平で持続可能な経済の原理を、今から築いていこう。市場ではなく、人々のための経済を。(P112)