とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

PITCH LEVEL

 昨年の「サッカー本大賞」の大賞を受賞した作品というので楽しみに本書を手にした。しかし同時にサッカー選手が書いた本というので、ライターが書いた自伝ではないとは知っていたが、なおさらのこと内容には半信半疑な感じ。でも読み始めると、思った以上に面白い。さすが国立東京学芸大で教職を取っただけのことはある。もっとも面白いのは脚注のキーワードにおけるコメント。これだけでも読む価値がある。

 また、経験をベースにしつつも、「勝敗の分かれ目」など、技術論・戦術論に偏らない選手ならではの視点で論じられている点が興味深い。第1章「サッカーの言葉」では、「崩された失点」とか、「ラインの高さ」「自分たちのサッカー」といった言葉に囚われたサッカー観を否定し、勝敗はそんなことで左右されるのではない現場での実感が綴られている。グランパスの選手たちに聞かせたい言葉だ。

 岩政が提起するのは、「常識」を逆手に取ること。そして「日常」が結果にあらわれるということ。心理面を重視した解説は実際のゲームの現場で聞いたらどれだけ面白いだろうか。まだ岩政の実況解説を聞いたことがないが、近い将来、岩政解説というゲームがあったらぜひ聞いてみたい。

 後半は次第に人生観になっていく。そこは人それぞれかも。本書のベースとなったブログ「現役目線」は今月終了してしまった。そして新刊が刊行された。「ウィニング・ストーリー」。こちらは十数人の選手や指導者との対談をまとめたもの。でも、単に対談をまとめたのではなく、対談を振り返り、独自の視点で捉え直し、書き起こしたという。面白そう。今度はこちらを読んでみよう。

 

 

○「勝つためには頭でっかちにならないこと、勝ち続けるためには頭でっかちになること」が大事だと思っています。「理屈」と「情熱」。そのどちらかだけでは決してありません。/ピッチに立つまではあらゆる角度から思考を巡らし、勝つための方法や判断の整理を行います。しかし、ひとたびピッチに立てば、自分の嗅覚を信じて、反応でプレーします。そして、頭ではなく、心でプレーしようと心がけます。(P5)

○うまく試合を運べなくても、「崩せない」「パスが合わない」「いい攻撃ができない」と嘆く必要はありません。その中でも勝ち筋はいくらでも見つけられるのです。・・・僕は経験から、「常識」を逆手に取ったプレーが突破口になると思っています。/例えば、カマタマーレとの試合で突破口となったのはクリア、ロングボールでしたが、決してそれは偶然ではありません。・・・「崩す、崩される」の局面では保たれていた集中が、クリアやロングボールを重要視しない「常識」によって、一瞬、途切れがちになるのです。(P18)

○僕は、勝負の神様は日常の中で、2つの状況で僕たちを試しているように思います。良い状態のときと苦しい状態のとき。/勝負を決する試合では、正直にその答えを示されます。/試されているのは日常です。その答えが勝者のメンタリティと呼ばれます。/「勝負の神様は細部に宿る」/よく聞きます。間違いありません。併せて僕は、/「勝負の神様は日常に在る」/と断言できます。(P59)

○武器とは、もともと自分にあるものから生み出されるものと思われています。・・・「スピード」とか、「フィジカル」とか、「テクニック」とかです。しかし、考え方次第で、自分になかったものからも武器は生み出せると思います。つまり、結局どんな人も、どんなことも、自分次第だということです。・・・選手として大事なことは、自分の持っているもの、持っていないものを整理し、その上で自分の表現の仕方を知っていることで、何か身体的特徴を持っているとか持っていないとかではありません。(P193)

○毎年、クラブは変わっていきます。選手は移り変わり、歴史に歴史を積み上げていきます。しかし、不思議なほど、クラブの“カラー”は変わりません。/それはきっと僕たちがクラブの歴史と戦っているからだと思います。そのマラソンレースに勝ったとしても敗れたとしても競ったのはクラブの歴史であり、今のクラブはクラブの歴史の上にしか立てないのです。(P257)