とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

日本の大問題

 日本には問題が山積している。荻上チキが「政治」「経済・福祉」「外交」「メディア」「治安」「教育」の6つにわたって、現代日本社会が抱える問題点を説明し、さらに具体的な改善方策を提案する。提案は全部で22項目挙げられているが、これがすべてでもなければ、実現性などの点で熟度にばらつきはある。だが、その発想は面白い。かなり具体的な提案がされており、かつ説得力もある。6項目のうち、「経済」と「福祉」が一つのカテゴリーとされている点も興味深い。もちろん福祉には、障害や加齢等に伴い必要となる福祉もあるが、それもすべて経済的社会の仕組みの中で解決できないかと考える。それは確かに正しいアプローチだ。

 本書は「20代でもわかる日本の諸問題」という依頼で書き始めたと書いている。「大人になってから読み直す、社会の教科書」(P238)。文章的にもかなり平易で、私でも容易に理解できる。かつ、内容はかなり専門的で、知らなかった概念も多く書かれている。例えば、経済的自由主義と政治的自由主義の違い、積極的平和主義の本意、メディアが持つ3つの感染効果、ハーム・リダクション(有害性縮減)など。教育機会確保法の制定経緯などもあまり追いかけてはいなかった。

 「日本の大問題」という取り上げ方はカタログ的でもあり、これがすべてでもなく、また内容も当然偏っているが、それらを自覚していることがいい。まさに評論家的視点ということかもしれないが、こうした整理は読者の頭も整理してくれる。それにしても問題山積だ。もちろん世界中の国が同様に多くの問題を抱えているのだろうが、こんな状態で日本の将来はどうなってしまうのか。改めて不安が大きくなる。どうかこれらの問題が直接、私や私の家族に降りかかってくることがないように、と思わず祈ってしまった。もちろん、問題解決に向けて行動するという前向きな意識が必要なのは理解しているのだが……。

 

日本の大問題 残酷な日本の未来を変える22の方法

日本の大問題 残酷な日本の未来を変える22の方法

 

 

○自らの法案を通すことが前提で代案を出してくださいと言い、代案を出したら、作ること自体はもう賛成ですねという空気を作ることになる。それ自体がおかしいということで代案を出さないと、反対ばかりしている野党だという印象操作をすることができる。いずれにしてもペースメイクをするのは与党です。/そんななかで、国会での野党の仕事は、基本的には「反対すること」と言い切れます。(P033)

○人々の睡眠権や休息権を確保するための「睡眠基本法」のような法律をつくっていこうというのが私の提案です。……食事に関しては……2005年に施行された「食育基本法」というものがあります。……食事と同様に、睡眠もまた生存のためには決定的に重要でしょう。……日本に起きているのは、「社会的な睡眠不足」という現象です。……目標値をつくり、国に対してそれを達成する義務を負わしていく必要すらあるそうです。(P090)

国際連盟では、基本的に「不戦」をゴールとして、そのために武力に訴えることを否定した。しかし国際連合の場合、国際連盟の理念は受け継ぎながらも、同時に戦争を起こさないために、その発生源である差別、貧困、ケア不足などを、積極的に手当てしていこうという思想になっていくわけです。/じつはこれが「積極的平和主義」の本来の意味です。……だから国連憲章では、戦争をしないだけでなく、差別の撤廃や人権の尊重も大事な理念になっています。(P108)

○日本では、刑法の思想が懲罰主義になってしまっています。犯罪を減らすために刑罰を与えるのではなく、因果応報の罰を与えることをよしとする。罪を犯した人には、恨みを持つ個人の代わりに、法治国家が代行して、痛い目に遭わせる。そういうふうに刑罰を捉えてしまっているわけです。……つまり、刑罰を与えることが、どのようにして安全な社会を実現することにつながるのかという議論が脆弱なのです。(P182)

○もともと教育機会確保法は、「多様な教育機会確保法」と呼ばれていましたが、法案成立にあたって「多様な」は削除されました。それは……フリースクールと自宅教育が義務教育として認められなくなったからです。このことは、日本がいまだ「通学中心主義」から抜けきれていないことを示唆しています。……近代は「子ども」という概念を発見した。とすれば、その次には「多様な子ども」や「多様な成長モデル」の発見をする時代になっているのです。(P227)