とんま天狗は雲の上

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対立の世紀

 グローバル化の結果、現代が「対立の世紀」になってきているということは誰もが実感し賛同することだろう。資本主義が経済のグローバル化に浸潤される中で、一国の中における格差を拡大し、壁と対立が立ち現れてきている。さらに、AIと自動化というデジタル化の波が次第にその存在を大きくする中で、一国の中における以上に、発展途上国において低賃金の職業を奪い、国境を越えて社会不安が沸き起こりつつある。

 こうした状況を第3章以降では、各国の「人口を合計すると、世界人口の半分を優に超える。若年人口に至ってはさらに高い割合がこれらの国々に暮らしている。21世紀の世界経済の運命は、彼らが握っている」という12ヶ国。南アフリカ、ナイジェリア、エジプト、サウジアラビア、ブラジル、メキシコ、ベネズエラ、トルコ、ロシア、インドネシア、インド、そして中国のそれぞれについて、社会と政府の現状を詳細に語っていく。

 では、いかにすれば、この状況から脱することができるのか。第5章「ニュー・ディール」では、社会契約という思想に立ち返り、税制、ギグエコノミー、ベーシックインカムなどの最近の政策提案なども参照しつつ、「社会契約を書き換える」ことの必要性を訴えていく。

 我々はAIやロボットなどデジタル革命の一層の進行が結果的に社会不安をなくす方向に導いてくれるのではないかという漠然とした期待を抱いている。しかし本書では、AIと自動化はさらなる分断と対立を生むと結論づける。そしてだからこそ、新たな社会に向けて、社会契約の刷新が必要だと訴える。一方で、現在の各国政府や経済の状況ではそれは簡単ではないことも述べている。たぶん壁を作る方向に向かうのだろうと。そしてそれでも最後は、「人はベストを尽くさなければいけなくなった時にベストを尽くす」と楽観的な姿勢を崩さない。「再び必要が発明の母にならなければならない」。本書の最後はこう結ばれている。そうなるといいのだけれど。

 

対立の世紀 グローバリズムの破綻

対立の世紀 グローバリズムの破綻

 

 

○人間は、安全と機会と成功を欲する存在であり、政府は、それらを提供して功績を主張したがる。統治する側も統治される側も、これらが脅威に晒された時、自らの状況に対するコントロールを取り戻す手立てが自分たちにあると思い込みたがるものだ。/これこそが「われわれと彼ら」の間に横たわる戦線なのだ、共通の連帯意識を宣言することによってコントロールを回復することへの欲求からナショナリズムは生まれる。(P63)

○ロボット工学とAIが世界中で導入されると、これまで貧しい国や貧しい人々が中所得国や中産階級に属する消費者になる後押しをしてきた、低賃金という優位性が急激に低下してしまう。……自動化によって発展途上国の賃金が低下すれば、労働者たちは進化したAIが経済成長の大部分を担う世界で成功するため必要な教育を受けることもできなくなるかもしれない。そして経済成長の低下が……中産階級が政府に求めるすべてのものに対する予算の低下をもたらす。好循環は悪循環に変わってしまうのだ。(P82)

○政府の存在理由は自ら変化を起こすことにあるのか、変化が起きることを可能にすることにあるのか、それとも変化による甚大な悪影響~国民を守ることにあるのか。……我々の世界で起こりつつある不可逆的な変化を考慮に入れると、社会契約、すなわち社会の紐帯たる国家と個人との間の約束について我々が前提としていることをすべて綿密に考察することが、今ほど重要だったことはない。(P199)

○我々の子供を教育したり、高齢者の世話をしたりするために多くの人を雇用し、より高い給料を払う。この2つの仕事にはこの先何年にもわたってロボットではなく、人間が必要とされる。そしてゲイツは、このプロセスを管理していくのは政府の重要な役割だと主張する。……政府は、雇用の増加と消費者の生活水準向上のいずれを高めるために税制を設計するのか、を決定しなければならない。(P215)

○さしあたって、行うべき選択がある。壁を作るのか。それとも、社会契約を書き換えるのか。……社会契約を書き換えるというこの原理・原則は、前向きな政治的コンセンサスを得ることが可能な国ならどこでも生かすことができる。そして、できるだけ多くの人々のために永続的な安全と繁栄を形成するには、国民と政府の間の関係を再構築する方が壁の建設よりずっと見込みがある。(P248)