とんま天狗は雲の上

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リベラルは死なない

 井手英策が気になって思わず買ってしまったけど、井手英策が書いているのは、「はじめに」と序章だけで、あとは7人の立憲民主党や国民民主党の国会議員だった。ちょっとがっかり。それでもせっかく買った本なので、終わりまで読んでみることにした。

 序章の井手英策は「All for All」、消費増税とベーシック・サービスについて語る。第1章の川合孝典社会保障制度、第2章の山内康一は教育政策、第3章の矢田わか子は子育て政策、第4章の岡本あき子は障害者政策、第5章の階猛は金融政策、第6章の逢坂誠二地方自治制度、そして終章では小川淳也が、「消費税を毎年1%ずつ上げていけ」と財政政策について大胆な提案をしている。

 各政策論のうち政策拡充の主張は財源等との相対的な問題でもあり、ただページをめくるのみだが、ところどころ興味深い記述もある。例えば、川合孝典氏が言う「安倍政権の看板政策の多くは民主党政権が取り組んだものじゃないか」という主張は、なるほどそうかも。そう考えると、リベラル野党の方が真面目に政策提言をしており、自民党は政権与党であり続けるための政策判断をしているだけのような気がしてくる。多くの場合、政策の立案検討は官僚が行い、権益を踏まえた政治的な調整があって政策は現実のものとなる。その結果、社会はますます複雑怪奇になり、矛盾と理想と権益の狭間でこんがらがっている。政界はきっとそんな世界なのだろう。

 「はじめに」で井手英策が、2017年の衆議院総選挙に向けてまとめた「All for All」政策が民進党分裂のために選挙でまともに議論されることなく終わったことを嘆いている。誰が本当の意味で社会が少しでもよくなることを願い、行動しているのだろうか。政治とはいったい誰のためのものなのか。日本だけのことではないのかもしれないが、政治と社会と経済と、どんな仕組みがベストなのか。「民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが。」というチャーチルの言葉が心に沁みる。参議院選も間近になった今日この頃、政治家不信はますます亢進しつつある。

 

リベラルは死なない 将来不安を解決する設計図 (朝日新書)

リベラルは死なない 将来不安を解決する設計図 (朝日新書)

 

 

○【井手】税の痛みが強い社会とは、財政が公正だとは考えられていなかったり、政府や民主主義への信頼感が弱かったり、さらに言うならば、その社会を生きる人たちと「ともに生きよう」とする意志を持てない社会だったりするのかもしれない。……いまの日本社会には、多くの納税者が自分よりもまず、別のだれかから税を取れと考えているという悲しい現実が横たわっているのだ。(P35)

○【川合】民主党政権は、リーマン・ショックによる景気低迷や東日本大震災という未曽有の大災害と政権担当時期が重なったこともあり、ごく短命に終わってしまった。……しかし民主党政権が、当時取り組んだ政策の多くは、その後安倍政権によって確実に引き継がれていることも事実だ。/子ども・子育て支援、地域包括ケアシステム、学校教育の無償化、65歳までの継続雇用等々、今では安倍政権の看板政策となっているものの多くは、民主党政権から引き継いだ政策といってよい。(P76)

○【階】本章では、長引くデフレ不況の背景に国民不安という問題があること、異次元の金融緩和はこれを解決するどころか、金融混乱や財政悪化のリスクを高め、むしろ問題を増幅している旨を指摘した。/そのうえで、金融機関が国民の将来不安を解消する役目を果たすには、「株主価値の創造から共通価値の創造へ」「地域外取引から地域内の取引へ」「資金の融通から人材の融通へ」という三つのパラダイムシフトが必要だということを、具体策と共に提案した。(P198)

○【逢坂】地方創生は……2018年度までに計7200億円もの交付金自治体に配分されるが、芳しい成果は見えない。……なぜ成果があがらないのか。それは地方自治体の自主性と自立性を尊重せず、国側の判断で事業の進捗を管理し、事業の可否を判断しているからだ。……中央集権的な国のやり方は、一見、スピード感あるリーダーシップの発揮に見えるが、地方の発言を封殺し、……結果的に日本の民主制の活力を削ぎ落してしまう。(P229)

○【小川】できれば毎年……例えば1%ずつ、長期的に消費税を引き上げていく……長期にわたって少しずつ引き上げること……によって、成長時代の安定的な物価上昇が、疑似的に実現することになる。そうなれば……耐久財から消費材に至るまで、経済活動が徐々に緩やかに前倒しされる傾向が続くことになる。……極めて逆説的だが、長期的で緩やかな価格税制こそが、最大の景気対策・経済対策として機能するということなのだ。(P250)