とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

日本国の正体

 「○○の正体」というタイトルは、孫崎亨が始めたものだっただろうか。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」で戦後の日米関係を暴露して話題を呼んだ孫崎氏が新たに「○○の正体」シリーズを発行した。今度は「日本国の正体」。いったいどんな日本国の真実が暴露されるのだろうか!と期待を持って予約をしたが、届いた本を手に取って驚いた。全編すべて、日本の古代から戦後に至るまでの外国人たちによる「日本論」が列記された本だった。引用ごとに多少の解説と分析も添えられているが、その部分はけっして多くなく、解釈はほとんど読者に委ねられている。

 もちろん何を引用するか、どう並べるかといった部分で筆者の意向も反映されるだろうが、淡々と列記されても、やはりわかりづらい。最終章の「米軍による占領時代」に、「日本の民主化は『アメリカに強要された』もの」や「戦後の官僚機構とGHQの『知られざる関係』」、「『日本人は戦略が弱い』スターリンが看破」などの小見出しがついた引用が並んでいるが、やはり相当に控えめなものと言わざるを得ない。

 「日本国」という言葉からは百田尚樹の「日本国紀」が思い浮かぶ。「日本国紀」に対しては「百田尚樹『日本国紀』の真実」なる批判本があるが、孫崎亨も「日本国紀」に対する批判本として本書を出版したのだろうか。だとすればあまりに上品で、あまりに意味がない。空想だけで本を書く小説家に対して、外交官は実に多くの本を読み、情報を取り入れて考察をしているということはよくわかるが、やはり自分の言葉で記してもらわないと、一般読者にはなかなか理解することは難しい。

 

日本国の正体 「異国の眼」で見た真実の歴史

日本国の正体 「異国の眼」で見た真実の歴史

 

 

○日本の特色は「①孤立性」と「②均一性」にある。/「個」を排する力がどの社会よりも強い。多様性を排する力がどの社会より強い。そのため、自分とは違った視点の評価に耳を傾ける機会が少なく、それが「自己」の評価や、「相手」の評価を歪めてしまう、という傾向を日本は内蔵している。(P1)

○宮殿と言っても、中世の要塞から発達した西洋の宮殿の厳めしさとは大きく異なる、東洋において宮殿は常に『軍事的要素』の対極をなすもの、つまり文民的で上品な建築だった。…言うなれば、自然に従い、これを迎え入れ、絶妙な調和を保ちながら、そこに人間味を加えた建築であった」…日本史で輝かしい発展を遂げた時は、奈良時代、南蛮文化の到来、開国後の西洋文明の到来等、コスモポリタニズム的な物に日本社会が遭遇し、爆発的進歩を遂げた時である。(P82)

○<(明治憲法は)天皇に絶対の権力を与えているが、不思議なことに天皇はそれを行使する事をこれまでほとんど許されていない。/日本人は世界史上最長で途切れたことのない君主をよく自慢するが、その天皇がまずほとんど統治したことがないことは言いたがらない>/〈(徳川幕府後も)この昔からの慣行は変わらなかった。変わったのは軍事的独裁者の一群が別の一群になっただけで、それまでの独裁者たちよりも天皇を後ろ盾にしたもっといい立場で国が統治できた〉(P232)

○日本の「民主化」というのは、正確にいうと何を意味するのか?…人民の大多数の意思による国家の政治という意味でないことだけは、明白に分かった。…(誰かがそれを)何回かにわけて、文書または口頭の指令として、日本人に与えているのであった。日本の指導者たちはもしこれを侵犯すれば解職になるという条件付で、指令を実行するように強要されていたのだ。それ故、日本の民主主義は、実際には日本の専制政治だ。(P322)

○日本人は…まず何よりも、大の働き者で…労働の中に人生の意味を見出しているような印象をうけます。彼らをせきたてたり、怒鳴りつけたりする必要はまったくありません。…たった一つ彼等に必要なのは、労働課題を具体的に示すことと、作業の仕方を教えてやることです。日本人にとって、労働は創作活動です。同じ作るなら、人が目をみはるような美しい物、隣の者あるいは同僚よりよい物を作ろうとします(P326)