とんま天狗は雲の上

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新型コロナウイルス対策のガラパゴス化に対する危惧

 新型コロナウイルスの感染はWHOが「今や欧州がパンデミックの中心地」と発表する状況になっている。既に中国内での感染者数をイタリア1国の感染者数が上回り、中国から医療団がイタリアに派遣される事態にまでなっている。また、韓国も感染者数の発生が二桁台まで落ちてきて、だいぶ落ち着いてきたようだ。一方、日本の感染者数も一時よりは落ち着いてきたように報じられているが、中国や韓国に比べると圧倒的に検査数が少なく、医師が検査を要請しても拒否されたという報道も多く伝えられていることから、作為的に検査をしていない、その結果、感染者数も恣意的に抑えられているという見方が、みんなあまり口に出しては言わないが、国民の間では一般的だろう。特に最近は、クラスター関係者と海外渡航者を優先しているようにも思われる。

 こうした中、ニューズウィーク日本版に「日本の新型コロナウイルス対策は評価できるか」という記事が掲載されていた。執筆者はニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎氏で、感染症対策等の専門家ではないので、どこまで信頼していいのかわからないが、記事の中で三尾氏は「日本では既に全国的な『市中感染』の拡大が始まったとの現状認識に立つならば」と書いている。そして、その前提に立つならば、日本政府の打ち出した対策は「正しい判断」だとしている。後段はよろしい。問題は「日本では既に全国的な市中感染の拡大が始まっ」ていると考えていいのだろうかという点である。

 この記事は、3月10日付のニッセイ基礎研究所のレポートから転載されているので、今から1週間近く前の状況を踏まえての記述ということになるが、たぶんその時点でも既に「市中感染は始まっている」と考える人が、私の周りでも多かった。政府の検査抑制策が行き過ぎている印象を与えていた状況下では、政府発表を鵜呑みにせず、このように考える人は多かったと思う。その後、検査抑制について、検査キャパシティの問題や発症患者の入院ベッドの確保等の問題なども伝えられ、「仕方ないか」という感覚が広がり始めているように感じる。

 しかし世界的には、徹底的に検査を実施する方策を取る国がほとんどだ。最初に武漢で発生した後、中国が武漢を封鎖し、徹底検査を行う方針を取ったことが大きいと思うが、韓国などはこうしたやり方をさらに徹底して実施している。ドライブスルー型の検査はその象徴的なやり方だが、いくつかの国で同様な方法で大規模な検査の実施を進めている。一方、日本は検査実施に関しては依然として抑制的だ。15日には厚労省の公式ツイッター「ドライブスルー方式を実施しない理由」を説明しているが、あまり理由になっていないように思える。

 徹底検査方針がいいのか。それとも、感染の疑いのある者に限って抑制的に検査を行うことでいいのか。収束してみないと、どちらの方法がいいのか何とも言えないが、仮に前者を「中国方式」、後者を「日本方式」と呼ぶならば、現状、多くの国が中国方式を採用しており、日本方式により感染収束を宣言したとしても、しばらくは受け入れられないのではないか。新型コロナウイルス対策のガラパゴス化だ。

 そして、中国がいち早く新型コロナウイルス感染収束の方向へ舵を切る中で、米国を始めとする欧米各国では株価暴落などの経済的な損傷を負い、このまま欧州での感染拡大に時間を要するようだと、経済面でこれまで以上に中国の存在感が増していくことが考えられる。韓国がこのまま感染拡大を収束させるとすれば、収束が遅れるアメリカ等に比べ、これまで以上に中国との関係が強化・拡大していくことだろう。イタリアへいち早く医療団を送ったことが示すように、欧州各国と中国との結び付きもさらに高まることが予測される。こうした中、日本が日本方式での感染収束を訴えたとしても、中国を始めとする各国からの信頼度はどうだろうか。まだ危ないのではないかと、関係修復に後れを取ることが考えられる。

 ドイツのメルケル首相が11日に「国民の6~7割が感染する可能性がある」と発言しており、三尾氏が書くように「市中感染が進んでしまった」日本では、他国に先駆けて、そうした状況に至る可能性がある。その結果、高齢者の多くが死亡し、高齢化率の上昇が一時的に抑えられ、しかも他国よりもより多くの国民が新型コロナウイルスに対する抗体を身に付けて、世界一の長寿国に復活するというシナリオも考えられなくはないだろうが、新型コロナウイルス対策のガラパゴス化により、経済的にもガラパゴス化してしまうという懸念はないだろうか。

 だからこそ、感染収束後に開催されるであろう東京五輪への期待もこれまで以上に高まるのだが、拙速に五輪開催をゴリ押ししない方が長期的には必要ではないかとも思う。以上、医療も経済も全く専門外の門外漢による妄想ではあるが、感染収束後の世界がどうなっているのか。今から楽しみなような、怖いような、そんな気持ちだ。もっともそれまで生きていればこそのことではあるが。

 

ガラパゴス化する日本 (講談社現代新書)

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  • 作者:吉川 尚宏
  • 発売日: 2010/02/18
  • メディア: 新書